約 1,746,356 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9284.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第八十四話「再会の姫」 地殻怪地底獣ティグリス 登場 剣と魔法の世界ハルケギニアで、侍の格好をした奇妙奇天烈な姫君、クリスティナ・ヴァーサ・ リクセル・オクセンシェルナがトリステイン魔法学院にやってきた翌日。クリスは正式にルイズらの クラスに編入を果たした。生徒たちは当然ながら、見たこともない出で立ちで、デバンという奇怪な 生物を使い魔にしているクリスに奇異の目を向けていた。 そして同日、クリスはアンリエッタへと、トリステインの魔法学院への留学に際して便宜を 図ってもらったことの礼を言うために、トリスタニアの王宮へと向かうこととなった。そして 王宮までの案内兼護衛役として、アンリエッタと特に親しい間柄のルイズと才人が同行することとなった。 そういうことで現在、ルイズたち一行はトリスタニアへと足を運んでいた。 「ああ、クリス! それにルイズと、サイトさんも! 来てくれたのね!」 王宮のアンリエッタへのお目通りが認可され、彼女の私室で対面すると、アンリエッタは 弾んだ声を出して一行を歓迎した。 「アンリエッタ女王陛下もご機嫌麗しく。お目通り感謝致します」 「ふふッ! そんなに畏まらなくていいのよ。いま、ここにはわたくししかいませんもの」 クリスが恭しく頭を下げると、アンリエッタはおかしそうにそう言った。 「改めて、ようこそ、トリステイン王国へ。歓迎するわ、わたくしのお友達、クリス」 「……ははッ!」 アンリエッタが「友達」と呼ぶと、クリスもおかしそうに笑った。 「そうだな、小うるさい皆もいないし堅苦しいことは抜きにしよう。アンリエッタ、この度は 本当に世話になった。お陰で学院での生活も不自由なく送れる」 「いいえ、わたくしは何も。あなたの人徳よ」 クリスとアンリエッタが対等に言葉を交わす様子を目の当たりにして、クリスの後方に 控えるルイズがぽつりとつぶやいた。 「クリス、ほんとに姫さまのご友人だったのね……」 すかさず才人が突っ込む。 「何だルイズ、信じてなかったのか?」 「まぁ、正直に言うと、半信半疑だったわね。だって、姫さまとクリスのイメージは、今一つ 結びつかなかったんだもの」 「へぇ。ま、気持ちは分からなくもないけどな」 かく言う才人だって、クリスがアンリエッタの友と自称してから、こうして直に二人の関係を 目にするまでにわかに信じられなかった。絵に描いたようなファンタジーのお姫さまのアンリエッタと、 クリスはある意味で対極だったのだから、本心から信じられないのも無理のないことなのかもしれない。 クリスからお礼を告げられたアンリエッタは、次にルイズと才人の方を向いた。 「ルイズ、わたくしの元までクリスを連れてきてくれたこと、感謝します。わたくしから 改めて紹介するけれど、クリスはわたくしの数少ない対等な立場のお友達なの。留学中、 どうかクリスのことをお願いするわね」 「は、はい! 姫さま、ご安心下さい。不肖ルイズ・フランソワーズ、どんな時もクリスティナ・ リクセル姫のお力になることを姫さまに誓います」 ルイズはその場に片膝を突いて頭を垂れ、アンリエッタに約束した。 だが肝心のクリスは、ルイズにこんなことを言う。 「ルイズ、わたしのことはクリスでいい。学院では身分に関係なく、ともに魔法を学ぶクラスメイト なのだからな。あそこでは、わたしはただのクリスだ」 「ふふッ、ルイズ、そうしてあげてちょうだい。クリスは見て分かるかもしれないけれど、 格式ばったことが嫌いなのよ」 「し、承知致しました。では……クリス、困ったことがあったらわたしに相談しなさいね。 出来る限りなら力になるから」 「ああ! こちらこそ、どうかよろしく頼む」 クリスがルイズに笑顔を向けていると、アンリエッタは最後に才人へ向き直った。 「サイトさんも、ここまでクリスを無事に連れてきてくれてありがとうございます」 「いやぁ、俺は今回何もしてないですよ」 一緒についてきただけなのにお礼を言われて、才人は少々照れくさくなった。 それにしても、今のアンリエッタはどこか楽しそうだと才人は思った。戦後はかなり影を 背負った様子であったが、現在は年齢相応の少女らしさが窺える。 実際に、アンリエッタは語る。 「わたくし、数日前から今日のこの時間をとても楽しみにしていたの。ルイズとクリス、 二人のお友達と語り合えるなんて。こんなに嬉しいことはないわ」 「もったいないお言葉です、姫さま」 「いいのよ、ルイズ。あなたもクリスのようにもっと気を抜いてちょうだいな」 「そ、そんな! 姫さまを相手にそんなこと出来ません!」 とルイズが言うと、クリスがツッコミを入れた。 「おや、ルイズ。わたしも王族なのだが?」 「あ、あなたは学院ではただのクリスだって自分で言ったじゃない! だからよ!」 「ははは! 冗談だよ、冗談」 「あらあら! 二人はもうすっかり仲良くなったのね」 ルイズとクリスのやり取りにアンリエッタがおかしそうに笑うと、クリスがアンリエッタに告げる。 「そうだ! アンリエッタ、サイトは本当にサムライだったよ」 「そうなの? わたくしには、あなたのお話を聞いてもよく分からなかったのだけれど……」 やはり、トリステイン人のアンリエッタには『侍』の概念がよく理解できなかったようだ。 「サムライに会えただけでも、この国に来た甲斐があったよ。本当にありがとう、アンリエッタ。 お前がわたしをサイトに、そしてルイズに引き合わせてくれたのだ」 「あなたの役に立てたのなら嬉しいわ、クリス」 クリスとアンリエッタが話していると……突然アニエスがノックもなしに部屋に飛び込んできて、 開口一番に報告した。 「ご歓談中失礼致します、陛下。このトリスタニアに怪獣が一体、まっすぐに接近中です!」 「――詳しく教えて」 アンリエッタは瞬時に女王の顔となり、アニエスに求めた。 トリスタニアに接近中という怪獣の現在地、トリスタニアからの距離を教えてもらい、 銃士隊が運んできた遠見の鏡でその姿を確かめる。 『グアァ――――――!』 果たして、鏡に怪獣の容貌が映し出された。二本の角を頭部から生やしたトラのような怪獣であり、 ルイズたちのやってきた魔法学院のある方角からちょうど真逆の方向から四足歩行で一歩一歩城下町に 近づきつつある。双眸は何故か半分しかまぶたが開いていない。 「地殻怪地底獣ティグリスっていう怪獣か……!」 才人が通信端末で怪獣の情報を引き出した。 「現在の移動速度から計算しますと、半刻に満たない時間で怪獣はトリスタニアに侵入することでしょう」 「わかりました、即刻対処致しましょう。ルイズ、サイトさん、一緒に来て下さい」 「承知致しました、姫さま」 アンリエッタがルイズと才人を連れて部屋から出ていこうとすると、クリスが呼び止めた。 「アンリエッタ、お前自ら指揮を執るのか?」 「ええ。国を守ることこそが王族の第一の役割ですもの」 「そうか、すっかり立派な女王になったな……。では、わたしに何か出来ることはないだろうか? 友として、どんなことでも力になるぞ」 クリスはそう申し出たのだが、アンリエッタはゆっくりと首を横に振った。 「大丈夫よ。これでも怪獣を相手にする経験は豊富なのだから。気持ちだけ受け取るわ。 だからあなたはここで吉報を待っていてちょうだい。ありがとう、クリス」 「分かった……。アンリエッタ、ルイズもサイトも、無理はしてくれるなよ!」 クリスの激励を受けながら、アンリエッタたちは部屋を出た。アニエスたち銃士隊を先に 作戦会議室に行かせると、才人とゼロがウルトラ戦士として意見をする。 「姫さま、ティグリスの対処は俺たちに任せてくれないか。データによると、ティグリスは 凶暴性のない、地底で大人しく生活してる怪獣だっていうんだ」 『地上に出てきたのには何か理由があるはずだ。俺たちがあいつを止めてみせるぜ!』 平和を守るために凶悪な敵と戦いながらも、一つでも多くの生命を助けたいと願うウルトラ戦士として、 悪性のない怪獣が傷つけられることは望ましくない。才人とゼロは、ティグリスと人間が無用な衝突を しないようにする考えであった。 アンリエッタも彼らの気持ちを汲む。 「分かりました。ではこの一件は、あなた方に託します。どうかわたくしたちのみならず、 怪獣のことも助けてあげて下さい」 「頑張ってね、サイト、ゼロ!」 「ああ! それじゃ行くぞ! デュワッ!」 ルイズの声援を受けながら、才人はウルトラゼロアイを装着。光となって王宮から飛び出し、 ティグリスの迫る方角へと一直線に飛んでいった。 そして接近するティグリスを発見すると、ウルトラマンゼロの巨大な姿でその面前に着地する。 『よっしゃ! 止まれ、ティグリス!』 降り立ったゼロは早速ティグリスの首周りに組みつき、これ以上の進行を止めようとする。 「グアァ――――――!」 だがティグリスは怪力を発揮し、ゼロを払いのけた。 『うわッ!』 ティグリスは地底深く、常に四方八方から強烈な圧力を受ける環境下で長い時を過ごす生物。 その影響で、肉体は実に強固に出来上がっている。その身体から生じるパワーはかなりのものだ。 単純な力では、ゼロをも上回る。 しかしゼロは無用な暴力は振るわない。しりもちを打ってもすぐ立ち上がり、今度はティグリスの 尻尾をむんずと掴んだ。 『せぇぇぇぇいッ!』 「グアァ――――――!」 ゼロもまた怪力を発揮して、腰をひねってティグリスを街の反対方向に投げ飛ばした。 これでティグリスを街から大分引き離すことが出来た。 が、ティグリスはなおもトリスタニアへの接近を続けようとする。その様子を観察して、 才人がゼロに呼びかけた。 『ゼロ、何だかあいつ、様子が変じゃないか?』 『ああ……俺もちょうどそう思ったところだ』 ティグリスは一心不乱にトリスタニアを目指している。ゼロが止めようとすると抵抗するが、 それ以外の時はゼロのことがまるで目の中に入っていないようだ。 目といえば、ティグリスの視線はどこか虚ろだ。まっすぐ前を向いていないようにさえ見える。 正気ではないのではないだろうか? 『正気じゃないなら、目を覚まさせてやろうぜ!』 ゼロの身体が青く輝き、ルナミラクルゼロへと変身した。そして、 『フルムーンウェーブ!』 手の平からティグリスへ淡い光の粒子を浴びせかける。浄化技、フルムーンウェーブ。 対象の覚醒効果もあるのだ。 「……グアァー?」 フルムーンウェーブの効果は無事に発揮され、ティグリスは半開きだったまぶたがパッチリと開いた。 そして辺りを不思議そうにキョロキョロ見回す。自分がどうして地上にいるのか、分かっていない様子だ。 「グアァ――――――」 やがてティグリスはクルリと半回転して、来た道を静かに引き返していった。このまま元いた 地底の世界に帰っていくのだろう。 『これでティグリスは大丈夫だな。だが……』 あっさりとティグリスを帰らせたゼロだが、釈然としない気持ちを抱えていた。先ほどまでの ティグリスは、明らかに不自然な状態であった。どこかの誰かが、何らかの目的でティグリスを 操ってトリスタニアにけしかけようとしたのだろうか。だが何のために? ティグリスがあまりに 簡単に正気に戻ったのも逆に腑に落ちないし、ティグリスを操作した誰かがいるとするなら、 何故この状況に至っても一向に姿を見せないのか。一体何をしようとしていたのか? 手掛かりが なさすぎて、全く答えが見つからない。 結局ゼロは、空へ飛び立って才人に戻って王宮に戻る以外に出来ることがなかった。 ティグリスを元の生息地に戻した後、ルイズ、才人、クリスの三人も学院へ帰還することとなった。 帰りの馬車の中で、クリスが口を開く。 「最後は忙しなくなったが、無事アンリエッタへの挨拶も済んだ。これで正式に学院での生活が始まるな」 彼女に才人が言う。 「クリス、ほんとに姫さまと仲いいんだな。あんなに楽しそうな姫さま、久しぶりに見た」 それに対し、クリスはこう返す。 「アンリエッタが喜んでいたのは、ルイズにわたしを紹介できたからだと思うぞ?」 「え?」 ルイズは一瞬虚を突かれたかのような顔になった。 「ルイズにわたしを託すことはアンリエッタの、ルイズへの信頼の証だ。わたしとアンリエッタは 友人ではあるが、国というしがらみからは抜け切れない。しかし、ルイズにはそれがないのだから」 「……そうね」 クリスの言葉に、ルイズは若干感心させられた。 「わたしも、アンリエッタのあんな笑顔は久しぶりに見たな。正直、友人を最高の笑顔に 出来るルイズが羨ましいよ」 正面から持ち上げられ、ルイズは気恥ずかしさを覚える。 「な、何言ってるのよ。姫さま、あなたに会えたことだってすごく喜んでらしたじゃない!」 才人はクリスを次のように評した。 「クリスってさ、何て言うか、素直だよなぁ。そういうことを簡単に言えちゃう辺りが」 「そうなのか? 師匠もよくそう言っていた。お前は素直だから色々教え甲斐があると」 クリスが「師匠」の単語を出すと、才人があっと思い出す。 「あ! そうだよ! クリスの師匠のこと、教えてくれよ!」 「ニホンから来たっていうサムライの人?」 聞き返すルイズ。 「そうそう! 詳しく教えてくれ!」 才人がせがむと、クリスは遠い目をしながら語り始めた。 「師匠か……。名はニシキダ・コジューロー・カゲタツ。ここではない世界からこちらに 迷い込んだと言っていた。モノノケ……要するに魔物を退治しながら流浪する旅人だったそうで、 これまで首の前後に顔を持つ鬼、マトーなる悪しき呪術師、心中した男女が化けて出た怨霊などを 退治したという。真実なのかどうかは、わたしにも分からないが」 ニシキダ・コジューロー・カゲタツ……。名前の響きは確かに日本風である。現代日本では 廃れた「諱」があるということは、本当に侍だったのか。さすがに端末に情報はなかった。 「なぁ、サイト。ニホンはどこにあるんだ? 師匠が言っていた通り、異世界にあるのか?」 「えッ、あー、その……すっごい遠くにあるんだ。ここからずーっとずーっと東の、ロバ・アル・カリイレ。 俺はそこからルイズの魔法で召喚されたんだ」 異世界のことをあまり言い触らされても困るので、才人はいつものように「はるか東方から やってきた」設定を使った。 「むむう……。ロバ・アル・カリイレは幻とも言われる地。だから師匠は『異世界』という 表現をしたのかもしれないな。……おっと、すまん。師匠の話だったな」 「その師匠って人とは、どうやって出会ったんだ? 旅人ってことは、俺みたいに召喚された 訳じゃなかったんだろ?」 「ああ。十年ほど前、師匠は我が国にふらりと立ち寄った。そして、とある森の中で魔物に 襲われていた幼い日のわたしを助けてくれたのだ。迅雷のような速さで剣を抜き、あっという間に 魔物を斬り捨てた姿は、とにかく鮮烈だったな……」 クリスは幼き日のヒーローを、熱い口調で説明した。 「わたしは彼に礼をするため、身分を明かし城に招こうとした。が、彼はわたしの身分を知っても 名誉や金を要求せず、更には名乗らずにその場を立ち去ろうとしたのだ。その姿は……わたしに とっては衝撃だった」 当時を思い返しているのか、クリスの瞳はキラキラと輝いている。 「王族であるわたしに取り入ろうとする者は掃いて捨てるほどいる。だが、その正反対な態度を 取った者は師匠が初めてだった。彼は何故そのように振る舞えるのか、わたしは不思議でたまらず、 素直に尋ねた。『褒美が欲しくないのか』と。すると師匠は、『モノノケを退治することが拙者の 使命。拙者の見出したブシドウ。拙者にとってはこれが当たり前のこと故に、見返りなど求めんのさ』 と答えたのだ」 「へええ~! 格好いいなぁ」 クリスの説明の中の、カゲタツの『武士道』に才人はいたく感心した。 「わたしは彼をそのように突き動かす『ブシドウ』というものを知りたくて、半ば無理矢理城に招き、 彼が説くサムライの生きざまに感動し、自分を弟子にしてほしいと願った訳さ」 「じゃあその人、まだクリスの国にいるのか?」 才人の問い返しに、クリスは否定する。 「いや……わたしが大きくなったある日に、この剣を残して忽然と姿を消してしまったのだ。 恐らくは、また魔物退治の旅に出たのだろう。その後どうなったのか……今はどこにいるのか、 故郷のニホンには帰れたのか、何も分からない。師匠ほどの剣の腕ならば、滅多なことは ないとは思うのだが……」 ――クリスのあずかり知らぬことだが、カゲタツ……錦田小十郎景竜はその後、ネオフロンティアスペースの 日本に帰還し、そこで天命を全うした。しかしその霊が、封印を破られて復活した二面鬼・宿那鬼を再度 封じるために現世に蘇ったことは、別の話である。 「別れの挨拶と感謝の気持ちを伝えられなかったことは残念ではあるが……わたしは師匠のお陰で 己の生き方を決められた。そして師匠の教えてくれた『ブシドウ』をこの生ある限り全うしようと誓ったのだ」 クリスは己の師匠を思い返しながら、精一杯の感情と熱意を込めながらその思いを宣言した。 ルイズたちが魔法学院に帰還している頃に、トリステインの空の一画でも、学院を目指す 風竜の影があった。 タバサとシルフィードである。トリステイン・ゲルマニア連合とアルビオンの戦争時に、 キュルケにくっついてトリステインから離れていたのだが、戦争も終わったので久々に学業に 復帰するために一路学院へと向かっているのである。 その旅路の中で、シルフィードがふとつぶやいた。 「それにしてもお姉さま、さっきの任務はすごい肩透かしだったのね」 実はタバサの学院帰還は、もう少し後になるはずだった。ツェルプストー家に滞在していた時に 任務が一件飛び込んできて、それを達成してからのはずだったのだが……いざ任務先に赴いたら、 頼まれたことが既に解決されていたので、予定を切り上げたのである。 「不登校児の貴族の子を学院に通わせるようにするなんて、どうなっちゃうのかシルフィちょっと 楽しみでもあったけれど、その子の家の門を叩いたちょうどその日に、えーっと、何て名前だったっけ? ……そうそう、オリヴァンって子が自分から学院に通うようになったなんて。とんだ無駄足だったのね。 まぁ、お姉さまが楽できたからそれでいいんだけど」 シルフィードが勝手にまくし立てることを、タバサはいつものように本を読みながら聞き流す。 「でもあの子、急に意見を翻したみたいで、一体どうしたのかしら? 昨日までは相変わらず だったそうだけど、ひと晩経ったらすっかり変わったなんて。どんな夢を見たのかしら? それに、 何で逆立ちの練習してたのね? 謎なのね。きゅい」 シルフィードがいくらしゃべっても、タバサはまるで関心を持たない。終わったことに これ以上首を突っ込むつもりはないと、態度が物語っていた。 シルフィードも肩をすくめ、それ以上不登校児の件には触れずにまっすぐ学院の方向へと飛んでいった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9087.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第二十五話「トリステイン全滅!円盤は生物だった!」 地底エージェント ギロン人 円盤生物ノーバ 登場 ラグドリアン湖で侵略活動を行っていたテペト星人の一団を撃退し、惚れ薬の解除薬の最後の材料である、 水の精霊の涙を手に入れた才人たちは、無事に解除薬をルイズに飲ませることが出来た。それにより、 ルイズはたちまちの内に元に戻った。その際に惚れ薬が効いている時の記憶が消えてなかったことから、 羞恥に駆られたルイズが暴走するなんてひと幕もあったが、普段通りになったルイズを見て、才人はやっぱり 元のルイズが一番だなぁと思った。 惚れ薬騒動は、そんな風に和やかに終わりを迎えた。しかし、また新たな事件が、ルイズが 元に戻ったその日の内に発生した。 アンリエッタ直属の女官としてのルイズの下に、とんでもない報せが届いたのだ。アンリエッタが 誘拐された、という。 「急いで! 夜が明けるまでに追いつかないと大変なことになる!」 深夜一時を過ぎた頃、ルイズと才人は、タバサとキュルケのコンビの協力の下、シルフィードに 跨ってラ・ロシェールへ続く街道を低空飛行で駆けていた。 凶報を受けたルイズたちは、直ちに王宮へ赴いて、ことの詳細を聞いた。夜分にどこからか 王宮に侵入した賊は、アンリエッタをかどわかして、警護を蹴散らして馬でラ・ロシェールに 向けて逃走していったという。港からアルビオンへ逃げ込むつもりだろう。アンリエッタが アルビオンへ連れていかれたら、取り返しがつかないことになる。 そしてもう一つ、驚くべき情報があった。アンリエッタを誘拐した犯人の顔を見た者は、 間違いなくウェールズ皇太子のものだったと証言したというのだ。ウェールズがどうして、 『レコン・キスタ』の手に落ちたアルビオンに味方するのか? だがルイズたちは別のことが 気に掛かっていた。ウェールズは、アルビオンで戦死したはず。確かにこの目で見届けた。 それなのに、今生きているはずがない。 それが一体どういうことなのか、ルイズたちには一つ心当たりがあった。『アンドバリ』の指輪。 ラグドリアン湖で水の精霊が、クロムウェルに盗まれたと語った秘宝。それには、死者に偽りの生命を 与える力があるという。やはり、指輪はアルビオンにあるのか。そしてそれで、ウェールズの死体を いいように操っているに違いない。 「姫さまの純情を弄ぶなんて、絶対に許せない……!」 ルイズはアンリエッタとウェールズの関係を、自分たちの都合で利用する『レコン・キスタ』に 深い怒りを抱いていた。 街道を走る中で一行は、自分たちより先にアンリエッタをさらったウェールズを追いかけ、 返り討ちに遭ったのであろう騎士の死体が転がっているのを発見した。シルフィードを止め、 その上から降りた。タバサは降りずに、油断なく辺りを見張っている。 「ひでえ」 焼け焦げた死体に、手足がバラバラにもがれた死体がたくさん転がる光景に、才人は思わず目を背けた。 「誘拐犯が乗ってたと思われる馬が倒れてる。近くにいる」 タバサが注意を促したその時、四方八方から、風の刃の攻撃が飛んできた。いち早くタバサが反応し、 頭上に空気の壁を作り上げて風を弾き飛ばした。 「また会ったな、ルイズ。そしてガンダールヴ」 草むらから、声とともに立ち上がる影があった。その正体を、ルイズと才人は嫌というほど知っている。 「ワルド!」 アルビオンでルイズを狙い、そしてウェールズの命を奪った張本人、ワルドだ。才人に 左腕を切り落とされたので、中身のない制服の袖がゆらゆらと揺れている。 「今日は君たちに会わせたい人がいるのだ。君らがよく知っている人物だ。ほら、そこにおられる」 ワルドは開口早々にそんなことを言った。そして示した先には、懐かしい人影。 「ウェールズ皇太子!」 紛れもない、ウェールズの姿だった。その顔を一瞥して、ワルドが歪んだ笑みを浮かべる。 「どうだね、クロムウェル閣下の『虚無』は。かつて貴族派の一番の敵で、私に胸を貫かれた皇太子、 いや今はただのウェールズが新たな命を授けられ、今や我らの同志だ」 死者を利用する冷酷なワルドに、ルイズが激しい怒りのこもった視線を投げかけた。 「ふざけないで! 何が『虚無』よ! 『アンドバリ』の指輪による、偽物の命じゃない!」 「アンド、バリ……? 何を言っているのかね、ルイズ」 どうやら、ワルドはクロムウェルの力の正体を知らされていないようで、キョトンとしている。 「まあ、ともかく、私とウェールズはこれより、親愛なるアンリエッタ女王陛下をアルビオンへ お連れせねばならないのだ。道を開けてはくれないかな?」 「そんなこと、する訳ないじゃない!」 ふざけたことを抜かすクロムウェルの態度に、ルイズがますます激昂した。才人の方は、 偽りのウェールズに対してデルフリンガーを抜く。 「姫さまを返せ」 しかし、ウェールズは微笑を崩さない。 「おかしなことを言うね。返せもなにも、彼女は彼女の意思で、ぼくにつきしたがっているのだ」 「なんだって?」 ウェールズの後ろから、ガウン姿のアンリエッタがあらわれた。ルイズが叫ぶ。 「姫さま! こちらにいらしてくださいな! そのウェールズ皇太子は、ウェールズさまでは ありません! クロムウェルの手によって『アンドバリ』の指輪で蘇った皇太子の亡霊です!」 しかし、アンリエッタは足を踏み出さない。わななくように、唇を噛み締めている。 「……姫さま?」 「見てのとおりだ。ここできみたちとやりあってもいいが、ぼくたちは馬を失ってしまった。 朝までに馬を調達しなくてはいけないし、道中危険もあるだろう。魔法はなるべく温存したい。 諦めて帰ってはくれないかね?」 ウェールズにタバサが、氷の矢で答えた。あっと言う間もなく、何本もの矢がウェールズの体を貫いた。 しかし……、驚くべきことにウェールズは倒れない。そして、見る間に傷口はふさがっていく。 「無駄だよ。きみたちの攻撃では、ぼくを傷つけることはできない」 その様子を見て、アンリエッタの表情が変わった。 「見たでしょう! それは王子じゃないわ! 別のなにかなのよ! 姫さま!」 しかし、アンリエッタは信じたくない、とでもいうように首を左右に振った。それから、 苦しそうな声でルイズたちに告げた。 「お願いよ、ルイズ。杖をおさめてちょうだい。わたしたちを、行かせてちょうだい」 「姫さま? なにをおっしゃるの! それはウェールズ皇太子じゃないのですよ! 姫さまは 騙されているんだわ!」 アンリエッタはにっこりと笑った。鬼気迫るような笑みだった。 「そんなことは知ってるわ。わたしの居室で再会したときから、そんなことは百も承知。 でも、それでもわたしはかまわない。ルイズ、あなたは人を好きになったことがないのね。 本気で好きになったら、何もかもを捨てても、ついて行きたいと思うものよ。わたしは昔、 誓ったのよルイズ。水の精霊の前で、『ウェールズさまに変わらぬ愛を誓います』と。 世のすべてに嘘をついても、自分の気持ちにだけは嘘はつけないわ。だから行かせてルイズ」 「姫さま!」 「これは命令よ。ルイズ・フランソワーズ。わたしのあなたに対する、最後の命令よ。 道をあけてちょうだい」 アンリエッタは、女王の立場も、今までのもの何もかも捨てて、愛を選んだようだった。 その決心を前にして、ルイズはアンリエッタを止めることが出来なくなる。 その代わりに、ウェールズとアンリエッタの前に才人が立ちふさがった。 「無粋な男だ。愛する二人の花道を阻むとは」 うそぶくワルドを睨み返して、才人が口を開く。 「何が愛する二人だ。寝言は寝てから言え。女とまともにつきあったことのない俺にだって このぐれえはわかる。こんなの愛でもなんでもねえ。ただの盲目だ。頭に血がのぼって ワケがわからなくなってるだけだ」 「どきなさい。これは命令よ」 精一杯の威厳を振り絞って、アンリエッタが叫ぶ。 「あいにく、俺はあんたの部下でもなんでもねえ。命令なんかきけねえよ。どうしても行くって 言うんなら……、俺はあんたをたたっ斬る」 一番初めに動いたのはウェールズだった。呪文を唱えようとしたが、才人が飛びかかる。 だが水の壁が才人を吹き飛ばした。アンリエッタの魔法だ。 「ウェールズさまには、指一本たりとも触れさせないわ」 水の壁は才人を押しつぶすかのように動く。しかし、次の瞬間アンリエッタの前の空間が爆発する。 アンリエッタが吹き飛んだ。ルイズが呪文を詠唱したのだ。 「姫さまといえども、わたしの使い魔には指一本たりとも触れさせませんわ」 ルイズが言葉を返した。その爆発を合図とするように、タバサとキュルケ、そしてワルドも動き出す。 「やはりこうなるか。仕方あるまい。今度こそ排除させてもらおう、ルイズ!」 ワルドが杖を掲げると、辺りの暗がりから複数のワルドが飛び込んできた。風の偏在だ。 既に用意していたようだ。 「ルイズとガンダールヴのお相手はウェールズと女王陛下がなさるようだ。ならばそこの二人は、 私と踊ってもらおう」 「いくら色男でも、性格の悪い奴は願い下げよ!」 ワルドと分身たちにタバサとキュルケが立ち向かう。二人の連携は、相手が片腕という不利もあるが、 ワルドにも通用して分身と互角に渡り合う。 ウェールズとアンリエッタと戦うルイズと才人は、まずルイズが爆発でアンリエッタの水の壁を破り、 才人がウェールズに剣を振るった。しかし、いくら斬っても既に死んでいるウェールズには全く効かない。 傷はたちまちふさがり、才人は風で吹き飛ばされる。 「くそッ。相手がゾンビじゃ、剣じゃ勝ち目ないぜ。何とか倒す方法ないのか……」 ルイズの下へ戻った才人が悩む。ゾンビに有効な手段といえば、炎で燃やすことくらいしか 思い浮かばないが、唯一それが出来るキュルケはワルドに足止めされている。ルイズと才人では、 勝ち目が見えない。 そのときデルフリンガーが、とぼけた声をあげた。 「あー、思い出した。あいつ、随分懐かしい魔法で動いてやがんなあ……」 「はい?」 「水の精霊を見たとき、こうなんか背中のあたりがむずむずしたが……、いや相棒、忘れっぽくてごめん。 でも安心しな。俺が思い出した」 「なにをだよ!」 「あいつと俺は、根っこは同じ魔法で動いてんのさ。とにかく四大系統とは根本から違う、 『先住』の魔法さ。ブリミルもあれにゃあ苦労したもんだ」 「なによ! 伝説の剣! 言いたいことがあるんならさっさと言いなさいよ! 役立たずね!」 ルイズが責めると、デルフリンガーはそっくりそのまま返す。 「役立たずはお前さんだ。せっかくの『虚無』の担い手なのに、見てりゃあバカの一つ覚えみてえに 『エクスプロージョン』。確かにそいつは強力だが、精神力を激しく消耗する。今のお前さんじゃ、 この前みてえにでっかいのは撃てねえよ。今のまんまじゃ花火と変わんね」 「じゃあどーすんのよ!」 「祈祷書のページをめくりな。ブリミルはいやはや、たいしたやつだぜ。きちんと対策は 練ってるはずさ」 ルイズは言われた通りにページをめくったが、エクスプロージョンの次は相変わらず真っ白である。 「もっとめくりな。必要があれば読める」 ルイズは文字が書かれたページを見つけた。 「……ディスペル・マジック?」 「そいつだ。『解除』さ。さっきお前さんが飲んだ薬と、理屈はいっしょだ」 早速ルイズは詠唱を始めるが、この魔法もやはり呪文が長い。その上、相手は痺れを切らしたか、 大技を繰り出してきた。 水の巨大竜巻が発生する。『水』と『水』と『水』、『風』と『風』と『風』。水と風の六乗。 王家のみ許された、掟破りのヘクサゴン・スペル。津波のような竜巻が、こちらに迫る。 「やっべえなあ。やっぱり向こうが先みてえだなあ」 デルフリンガーが呟く。 「どうしよう」 「どうしようもこうしようもねえだろが。あの竜巻を止めるのがお前さんの仕事だよ。ガンダールヴ」 「俺かぁ」 ぼやきながらも、才人に恐怖はなかった。ルイズの詠唱を耳にしていると、どこからか 勇気がみなぎってくる。 「不思議だな。あんなにでっかい竜巻だってのに、ちっとも怖くねえ」 「そりゃそうさ。勘違いすんなよ。ガンダールヴの仕事は、敵をやっつけることじゃねえ。 『呪文詠唱中の主人を守る』。それだけだ」 「簡単でいいな」 「主人の詠唱を聞いて勇気がみなぎるのは、赤んぼの笑い声を聞いて母親が顔をほころばすのと 理屈はいっしょさ。そういう風にできてんのさ」 ウェールズとアンリエッタの呪文が完成し、いよいよ竜巻が飛んできた。すさまじい暴風と怒濤。 たとえ要塞でも簡単に崩してしまうことだろう。 「楽勝だ! 俺は虚無の使い魔だぜ!」 だが才人は一気に飛び込んだ。デルフリンガーで竜巻を受け止める。 魔法を吸収するデルフリンガーとはいえ、この規模の攻撃は一気に吸い切れないらしい。 水流が激しく体をなぶり、才人を蹂躙する。 だが耐えている内に、ルイズの呪文が完成した。竜巻の魔力がデルフリンガーに吸い取られ、 水が滝のように崩れ落ちると、ルイズの杖から眩い光が輝く。 『ディスペル・マジック』がウェールズを包み込み、その体が地面に崩れ落ちる。アンリエッタは 駆け寄ろうとしたが、消耗しきっていた精神力のおかげで意識を失い、地面に倒れた。 その音で、既に偏在を倒され、タバサとキュルケと単騎で戦闘を続けていたワルドが振り返る。 「失敗か。もうこの場にいる意味はないな」 と言いながらも、タバサらが厳しく見張っているため、迂闊に動くことが出来ない。 逃げる隙を窺うために、そのままにらみ合いを続ける。 その間に、起き上がった才人がふらふらとウェールズ、アンリエッタに近寄る。 「やった。けど……」 一見勝利したように見えるが、まだ安心は出来なかった。『レコン・キスタ』に与している 侵略者がまだ姿を見せていない。アルビオンでは、ザラブ星人の横槍で全てが台無しになってしまった。 あれと同じようにさせてはいけない。どこから新手が出てきてもいいように、ゼロとともに 周囲を厳戒する。 だが予想に反して、何も出てこない。それでまずはアンリエッタを確保しようとした、その時、 「ん?」 ウェールズの襟元が、突然もぞもぞと動いたのだ。服の下に何かいる? 思わず顔を近づける才人。 『駄目だ才人ッ! 離れろぉッ!』 咄嗟にゼロが叫んだが、遅かった。襟が下から開かれると、服の下から、赤いテルテル坊主としか 言いようのないものが飛び出した。 「えッ!?」 面食らっている才人に、ケケケ! と歪んだ笑いを浮かべたテルテル坊主が、真っ赤なガスを吹きつけた。 「ぐああぁぁッ!?」 「サイト!?」 「あ、相棒!」 ガスを浴びた才人は、喉を押さえてバッタリと倒れた。テルテル坊主は唖然としている タバサとキュルケにもガスを吐きつける。 「きゃあ!? な、何よ一体……うッ!?」 ガスを浴びた二人の首にどこから現れたか赤い鎖が巻きつき、途端に目が血走る。 「な、何だ? 何が起こって……」 事態が呑み込めないワルドに、炎と氷の矢が降りかかった。タバサとキュルケが魔法を振るったのだ。 「ぐああああああッ!?」 「ワルド! タバサ、キュルケ、いきなり何を……!」 容赦ない不意打ちに重傷を負ったワルドだが、それでも走ってその場から退散していった。 タバサたちはワルドがいなくなると、血走った目をルイズに向けて、飛びかかってきた。 「うあああああぁぁぁぁぁぁぁ!」 「きゃあああッ! 何するの! や、やめてぇ!」 タバサとキュルケはルイズを羽交い絞めにして、喉を絞め出す。ワルドとの戦闘後なので 魔法は打ち止めのようだが、もし精神力が残っていたらルイズにも攻撃魔法を放ったことだろう。 今の彼女たちの目からは、正気が失われていた。 「かッ、かはッ……! た、助け……!」 非力なルイズでは、二人の押さえ込みに抗えない。息が詰まりながら、助けを求める。 その瞬間に、才人が猛然と走ってきて、タバサたちに素早く当て身を入れて失神させた。 「サイト! ……いえ、ゼロなの?」 「ああ……! 緊急事態なんで出てきた……」 才人の顔を覗いたルイズが、今の意識がゼロであることを見抜いた。才人の意識が失われたので、 無理矢理交代したのだ。 ルイズは、ふよふよと浮いてこちらを観察しているテルテル坊主を指差す。 「ゼロ、あの人形みたいなのは何なの? タバサもキュルケも、あいつの吐いたブレスを 吸っておかしくなったわ」 ゼロはテルテル坊主の正体を知っていた。 「あの奇抜な姿。一度見たら忘れられねぇぜ……! あいつは円盤生物ノーバ! 怪獣の一種だ!」 「怪獣!? あんなに小さいのに!?」 「奴は伸縮自在なんだ!」 『フハハハハハ! その通りだ! 仕掛けた罠にまんまと嵌まったな、ウルトラマンゼロ!』 円盤生物ノーバの後ろに、怪人が空間転移して現れた。ヤプールの刺客、ギロン人だ。 「お前はギロン人! ヤプール直属の手下か!」 『如何にも! 我が支配者の読み通り、この国の首長の大事には人間の姿でのこのことやってきたな。 そこをノーバで奇襲を掛ける。完璧に上手く行った! さすがはヤプール様の作戦よ!』 「くッ……!」 敵の策略に引っ掛かってしまい、舌打ちして悔しがるゼロ。しかし無理からぬことだろう。 ウェールズの服の下に怪獣が仕込まれているなど、誰が予想できるのか。 『ノーバの発狂ガスをまともに食らって、パワーを相当消耗しているはずだ。円盤生物よ! ウルトラマンゼロをこのままひねり潰してやれぇー!』 ギロン人の命令により、ノーバが赤い煙を発してその中に姿を隠す。そして次の瞬間には、 煙の中から右手に鞭、左手が鎌となった巨大怪獣の姿で現れた。 「ギイイイイィィィィ!」 ノーバは鞭を振り回して、ゼロとルイズに迫ってくる。 「ゼロ……!」 「任せとけ、ルイズ! 消耗してたって、あんな奴に負けるもんか! デュワッ!」 ルイズを背後に回してかばうゼロは、ウルトラゼロアイを装着して本来の姿に変身し、 巨大化してノーバの前に立ちはだかった。同時に、ギロン人も巨大化してノーバの後ろに回る。 『ギロン人! 俺を罠に嵌めたからって、お前とこのヒョロヒョロしたのでこのウルトラマンゼロに 挑もうなんて、ちょっと俺を舐めてるんじゃないか!?』 ゼロは才人の時に水の竜巻やガスを食らい、最初から消耗した状態にあった。それでも、 アンリエッタの気持ちを自分たちのいいように利用したギロン人たちへの怒りに燃えているので、 戦意と活力は溢れ返っている。今の彼なら、二対一の不利をつけられても負けはしないだろう。 だがギロン人は、ゼロに嘲笑を浴びせる。 『フハハハハハハ! 馬鹿め! 誰がこれで全部だと言った!』 『何!』 『出てこい、ブラックエンド!』 ギロン人の呼び声に応じるように、街道の脇の森の中から、黒と赤の二色の球体にムカデの 尻尾をくっつけたような物体が飛び出た。 「あれは……円盤!?」 ルイズが叫ぶ。現れた物体は、宇宙人たちの乗り物、円盤によく似ているようにルイズには見えた。 そして円盤は、一瞬の内に巨大化して、恐竜型の首に両脚、長い角を球体の胴体の前後に 六本生やした怪獣へと変化した。 「ガアアアアアアァァァァ!」 「え、円盤が怪獣に変身した!」 驚愕するルイズ。円盤が内部から怪獣を出すところは見たことがあるが、円盤そのものが 怪獣になるとは予想外だった。 「ガアアアアアアァァァァ!」 しかもそれだけではない。怪獣ブラックエンドが咆哮を上げると、それに呼応するように、 森の中から続々と様々な形状の小型円盤が飛び出して、その一つ一つが巨大怪獣に変身したのだ。 「ギャオオオオオオオオ!」 「ギャアアアアアアアア――――――!」 「ピギャ――――――!」 「キィ――――!」 カブトガニ、赤いクラゲ、クモヒトデ、カエルと亀を足したような生物、前後に二つの 顔がある怪物、チョウチンアンコウ、二枚貝、ハゲタカにそれぞれ似た、計八体の怪獣が ゼロを取り囲む。 更に円盤がもう一体、空から飛来してきた。赤い目を持ったような黒い円盤が急降下してきて、 途中で赤い一つ目の人型の怪獣へと変形し、ゼロの正面に着地した。 『指令。ウルティメイトフォースゼロ、抹殺』 『ロベルガー……!』 全て合わせて十一体の怪獣に包囲されるゼロ。その全てが、円盤生物だ。 『私が支配者より預かったのは、ノーバではない! 円盤生物そのものだぁッ!』 二桁に及ぶ敵に囲まれて、動揺したように辺りを見回しているゼロに対して、ギロン人が言い放った。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9405.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百三十八話「四冊目『THE FINAL BATTLE』(その2)」 スペースリセッター グローカーボーン スペースリセッター グローカールーク 鏑矢諸島の怪獣たち 伝説薬使獣呑龍 海底怪獣レイジャ チャイルドバルタン シルビィ ネイチュア宇宙人ギャシー星人 登場 ルイズを救う本の旅は、半分を越えて四冊目に入った。四冊目はウルトラマンコスモスの 護った地球を題材とした本。そこではムサシが人間と怪獣の共存する未来の新天地となる ネオユートピア計画により、遊星ジュランに飛び立つ時を待っていた。だがそこに現れた 謎の円盤と巨大ロボットが、輸送ロケットを狙う! コスモスが助けに駆けつけたが、 かつてともに戦ったウルトラマンジャスティスがどういう訳かロボットの味方をして コスモスを追い詰める! そこを今度はゼロが救い、ロケットはどうにか防衛することが出来た。 しかし才人の前に現れたのは、ジャスティスの人間態。それはルイズの姿となっていた……! 「……!」 自分の前に現れ、こちらに信じられないほどに冷酷な視線を送ってくるルイズに、才人は 固い面持ちとなった。 本の世界のルイズは、厳密には『ルイズ』とは言えない。これまでのように物語の登場人物に 当てはめられていて、その与えられた役になり切っている。だから『ルイズ』と呼べるのは見た目 だけで、全くの別人。ここで自分と敵対する立ち回りになっていたとしても、現実のルイズに 影響がある訳ではない。 それは頭では分かっているのだが……やはりルイズの姿を敵に回すという事実は、才人の 心情をひどく複雑なものにしていた。 「ウルトラマンジャスティス……どうしてあんたは、コスモスを攻撃したんだ。あのロボットと 円盤は何なんだ?」 そんな才人の思いをよそに、フブキがルイズに問いかけた。それを受けて、ジャスティスに なり切っているルイズは口を開いた。 「あれらはデラシオンの使いであるスペースリセッター。今から四十時間後、この星の生命は 全てリセットされる」 「リセット……!?」 ルイズの宣告に、フブキと才人は衝撃を受けた。 「地球の生き物を全て、消滅させるってことか!?」 「その通りだ。これは、宇宙正義により下された、最終決定事項である」 ルイズの語ることにフブキは極めて険しい表情となる。 「……あんたの話に出てきた、デラシオンってのは何者だ?」 「デラシオンは、我々ウルトラマンと同じく、この宇宙の秩序を守っている」 ルイズの双眸が怪しく光り、才人たちとの間にドーナツ型の巨大多脚円盤の立体映像が出現した。 「これは……!?」 「ギガエンドラ。人類を始め、全生命を消滅させる、惑星改造兵器だ」 巨大兵器ギガエンドラの中心部から発せられた光線が、地球の表層にあるものを全て焼き払い、 消し去る映像が才人たちの前で展開された。フブキが我慢ならずに叫ぶ。 「どうして、俺たちの地球にこんなことをしようって言うんだ!」 それのルイズの回答はこうだ。 「予測したからだ、未来を」 「未来?」 「今から二千年後、地球は宇宙にとって有害な星となる。よって全てを消し去り、生命の進化を やり直させる」 「地球が、宇宙に有害な星となるだと……!?」 言葉を失うフブキ。一方で才人は、二冊目の本でのことを回想した。 ウルトラセブンの物語に出てきた、フレンドシップ計画……。『フレンド』とは名ばかりの、 惑星破壊ミサイルで星を破壊することを主眼に置いた狂気の計画だった。また現実のM78ワールド でも、超兵器R1号やトロン爆弾など、星を爆破する実験が行われていた時代もあった。何度も 侵略宇宙人に襲われた地球人だが、これらの歴史を見ると、一つ間違っていたら地球人が恐ろしい 宇宙の破壊者になっていたかもしれない。 そしてデラシオンという者たちは、その可能性が現実となるものと判断したようだ。 「彼女の……ジャスティスの言ってることは全て真実だ。コスモスが教えてくれた」 ここでそれまで黙っていたムサシが発言した。 「だけどコスモスは、デラシオンの決定に反対し、最後まで説得し続けた! それが失敗しても、 こうして僕たち地球人のために駆けつけ、戦う意志を示してくれている!」 「……コスモス、そしてそこのウルトラマンに問おう。お前たちはどうして地球人類を守り続ける」 ルイズがムサシと才人……コスモスとゼロに問いかけてきた。 「たとえ武力で抗ったところで、何も変わるものなどない。デラシオンの決定も、地球人の 二千年後の姿も……。全ては無駄なのだ」 そう言い切るルイズに、ムサシは問い返した。 「逆に聞こう……。ジャスティス、あなたはどうしてデラシオンの決定を支持する。まだ未来は 確定していないのに、地球人が宇宙に有害な存在になるなんて……まるで見てきたかのようじゃないか」 すると、ルイズは意外なことを言い出した。 「見たのだ、私は」 「何だって……?」 「お前たちも戦った、多くの惑星を破壊したサンドロス。……あれは、昔は地球人類とよく 似ていた生き物だったのだ」 「!!?」 その告白に、才人たち三人は心の底から驚かされた。 「夢や愛などという曖昧な感情を持った、不完全な生命体だった。そして二千年前、今の 地球人と同じように、デラシオンからリセットの決定が下された……」 それがどうして、二千年前に執行されなかったのか。ルイズは理由を述べる。 「しかし、リセットは猶予が与えられた。……この私によって」 「……!」 「だが、それは過ちだった……。サンドロスは、デラシオンの予測した通りの存在になって しまった。……私は、過ちを二度と繰り返しはしない」 と語ったルイズに対して……才人が言う。 「サンドロスがそうだったとしても、地球人が同じになる理由にはならないさ」 「何?」 全員の視線が集まる中、才人は主張した。 「未来は計算されるもんじゃない。その土地、その時代の人たちが作り、つないでいくものだ! 俺とゼロは、ここじゃない別の場所だけど、人間の持つ可能性と希望の力を知っている!」 才人は見た。シティオブサウスゴータで、地獄の超獣軍団の暴威に晒されてもあきらめず、 命を救うために抗い続けた人間たちの姿を。そして他ならぬ自分が、はるかに巨大な存在が 相手でも折れることのない勇気を身につけることが出来た! それが人間の持つ、素晴らしい 力なのだ。 ゼロも、アナザースペースで人間たちの希望の光の結晶を得た。フューチャースペースでは、 圧倒的な絶望にも負けない人間たちの力によって助けられた! ゼロもまた人間の希望の力に よって支えられてきたのだ。 そしてM78ワールドの地球は、ウルトラ戦士でもどうしようもないような事態が何度も 襲ってきたが、それらを夢と希望を信じる心で打ち破ったから新たな時代を迎えることが 出来たのだ。それが人間の可能性だ! 「宇宙正義が何だ! 俺たちは、夢と希望こそが本当の正義だと信じてる! だからそれを 守り抜いてみせるッ!」 才人に続いて、ムサシもルイズに向けて呼びかけた。 「コスモスが言っている。私も、この地球で人間の持つ可能性を、希望という言葉の素晴らしさを 知った。それをジャスティス、君にも信じてもらいたいと!」 フブキもまた、ルイズに告げた。 「君は、楽な道を選んでるだけだ」 「楽な道……?」 「ここにいるムサシとコスモスは、どんな時でも、最後まで希望を持ってた。奇跡を信じてた! だから今度も奇跡を起こしてくれる……いや、俺たちで奇跡を起こしてやる!」 三者三様の熱い想いを胸に、ルイズを説得する。……しかしルイズは踵を返した。 「奇跡など、起こりはしない……」 その言葉を最後に、振り返ることなくどこかへ立ち去っていった。 「……駄目なのか……」 才人が思わずそうつぶやいたが、フブキが否定する。 「いや、最後まであきらめずに呼びかけ続ける! そうすれば、きっとどんな相手にも俺たちの 気持ちは通じる……!」 言いながら、ムサシと目を合わせた。 「お前はそう言いたいだろう?」 「……はい!」 ムサシは満面の笑みでフブキに肯定した。フブキは続けて述べる。 「デラシオンに対話の意思がなくても、チームEYESは地球からのメッセージを送り続ける! 早速指示しなくちゃな……。ムサシ、コスモス、悪いが後のことは頼んだぜ」 「任せて下さい! デラシオンが考えを変えてくれるまで、僕たちが地球を守ります!」 フブキは去り際に、才人にも目を向けた。 「ゼロって言ったか……どうか、コスモスとムサシを助けてやってくれ」 「はい! 望むところです!」 才人の力強い返答に微笑んだフブキが、EYESの基地へと向かっていった。それからムサシが 才人に向き直る。 「僕たちのために、地球のために戦ってくれてありがとう。その気持ちは、絶対に無駄には しない! だからともに手を取り合って、地球のリセットを阻止しよう!」 「ええ! よろしくお願いします!」 才人はムサシから差し出された手を取り、固い握手を交わした。 そしてゼロは、ある確信を得ていた。それは、この物語はコスモスペースでの実際の出来事の 途中までの記録だということ。コスモスが、ムサシの夢の実現の直前に、地球の存続を懸けた 大きな試練があったと語っていたのだ。 ならばこの物語を完結させるためにやるべきことはたった一つ。宇宙正義の決定を覆し、 地球の未来をつなぐのだ。 デラシオンによる地球全生命のリセットは、地球の各国政府にも告げられた。そして防衛軍は、 デラシオンに対する徹底抗戦を決定。軍事衛星の超長距離レーザーや弾道ミサイルの照準が、 衛星軌道上に押し出されたグローカーマザーと地球に迫り来るギガエンドラに向けられた。 攻撃開始は刻一刻と迫っていた。 しかしフブキ率いるチームEYESは、デラシオンに対してメッセージを送信し続けていた。 それが実ることを信じて……ムサシと才人はグローカーマザーの座標の真下に当たる市街まで来た。 「防衛軍の攻撃では、デラシオンの兵器を破壊することは出来ないだろう。そしてデラシオンは 地球の抗戦に対して、反撃を行う……! それを食い止めるのは僕たちだ!」 「はいッ!」 意気込む二人の超感覚が、ギガエンドラとグローカーマザーに対して攻撃が放たれたことを 感じ取る。 「始まった……!」 攻撃の結果は……やはりスペースリセッターを破壊することは出来なかった。ギガエンドラも グローカーマザーも傷一つつくことがなく健在。それどころか、グローカーマザーは地表に向けて グローカーボーンを複数機投下してきた。 「来たッ! 才人君、行こう!」 「はい!」 グローカーボーンの射出を確認したムサシは輝石を掲げ、才人はウルトラゼロアイを顔の 前にかざす。 「コスモースッ!」 「デュワッ!」 グローカーボーン四機が都市に着陸と同時に、二人は光に包まれてコスモス・コロナモードと ストロングコロナゼロに変身した! 「キ――――――――ッ!」 「デヤッ!」 「シェエアッ!」 グローカーボーンはコスモスとゼロを認めると、いきなり射撃を開始。それに対してコスモスは 光弾を空へ弾き、ゼロはパワーに物を言わせて突っ切りながら前進。グローカーボーンたちに接近していく。 「ハァッ!」 「セェェェイッ!」 「キ――――――――ッ!」 コスモスたちはグローカーボーンたちの間に切り込んで、肉弾で張り倒していく。 「デェアッ!」 そしてゼロの鉄拳がグローカーボーン一体の顔面に突き刺さり、衝撃でバラバラに粉砕した。 『よぉしッ!』 まずは一体を撃破したことにぐっと手を握るゼロだったが……空からはすぐに新たな グローカーボーンが送り込まれてきた。 「キ――――――――ッ!」 『何ッ!?』 コスモスは両腕を、円を描くように動かしてから、左手の平を右腕の内側に合わせる形で L字に組んだ腕より必殺のネイバスター光線を発射した! 「デヤァ―――――ッ!」 「キ――――――――ッ!」 振り抜かれた光線が、グローカーボーン三機を一気に爆破! だが同じ数のグローカーボーンがまた空から降下してくる。 「フッ!?」 『くそッ……! これじゃキリがねぇ……!』 グローカーマザーは宇宙船だけでなく、破壊兵器グローカーの工廠の役割もあるのだ。 故に尖兵であるグローカーボーンをいくら倒そうとも、新しい機体が絶え間なく作られて 送り込まれてくるのである。 次々湧いて出てくるグローカーボーンに手を焼いているコスモスとゼロの様子を、人々が 逃げ惑う市街からルイズが見上げていた。 「無駄だ。奇跡などない」 コスモスとゼロを囲んだグローカーボーンたちは、四方から光弾を乱射して浴びせる。 「ウアァァァッ!」 『くぅぅぅッ……!』 物量に物を言わせた攻撃に、追い詰められるコスモスたち。 その時、空の彼方から大きな影が猛スピードで戦場に飛来してきた! 「ピィ――――――!」 「あれは……!」 それに気づいたルイズが驚く。影の正体は鳥型の怪獣だ。ムサシがその名を叫ぶ。 『リドリアス!?』 リドリアスは空から光線を吐いてグローカーボーンを攻撃し、コスモスたちへの射撃を阻止する。 グローカーボーンはリドリアスの方に照準を向けたが、その一体の足元の地面が陥没して 姿勢を崩させた。 「グウワアアアアアア!」 地面の下からグローカーボーンを持ち上げたのはゴルメデだった! 更に投げ飛ばされた グローカーボーンに、続けて現れたボルギルスが体当たりを食らわせる。 「グイイイイイイイイ!」 強烈な突進によってはね飛ばされたグローカーボーンの機能が停止する。 コスモスたちに怪獣が加勢するが、グローカーボーンの方も負けじとばかりに更に増量される。 「キ――――――――ッ!」 グローカーボーンの無感情の銃口が怪獣たちに向けられるが……怪獣も続々と増援が戦場に 到着してきた! 「ピュ―――――ウ!」 地中から顔を出したのはモグルドン。それが掘った穴から、怪獣たちが飛び出してグローカー ボーンに飛び掛かっていく。 「グゥゥゥゥッ!」 「キュウウゥゥッ!」 「グルルルルッ!」 襟巻怪獣スピットルが黒い液体を吐いてグローカーボーンのモノアイを染め上げて視界を ふさぐ。動きが鈍ったグローカーボーンに、古代怪獣ガルバスとドルバが連続で火球を吐いて 撃破する。 「グルゥゥゥッ!」 「キャア――――ッ!」 岩石怪獣ネルドラントと地底怪獣テールダスがグローカーボーンに背後から飛びつき、 抱え上げて投げ飛ばした。 「グアァ――――――!」 「グルゥッ! グルゥッ!」 投げられたグローカーボーンに毒ガス怪獣エリガルと密輸怪獣バデータが突進してはね飛ばし、 グローカーボーンはその衝撃で内部機械が破壊され動かなくなった。 「キ――――――――ッ!」 奮闘する怪獣たちだが、グローカーボーンはまだいる。滅茶苦茶に乱射される銃口が、 逃げ遅れている人々の方へ向けられた! 「きゃあああああッ!」 「キュウウゥゥッ!」 放たれた光弾に対して分身怪獣タブリスがその身を挺して受け止め、人々を救った。 このウルトラマンと、人間たちを助けている怪獣は、鏑矢諸島に暮らす者たちだ。ムサシと チームEYES、そしてコスモスによって救われた怪獣たちである。 「グアアァァァッ!」 タブリスを攻撃したグローカーボーンに、伝説薬使獣呑龍が突進し、吹っ飛ばした。更にそこに、 空の彼方から二機の戦闘機が駆けつける。 「今だッ! コスモスたちを助けるんだ!」 テックサンダー、テックスピナーの系譜に連なる現EYESの主力作戦航空機、テックライガー。 その指揮を執るのはもちろんフブキだ! テックライガーからのレーザー集中攻撃により、グローカーボーンがまた一体破壊された。 このウルトラマン、怪獣、人間が共闘する光景にルイズが目を見開く。 「何故、怪獣が人間と……!?」 「それが、ムサシがやってきたことなんだ」 ルイズの背後から呼び掛けられる声。ルイズが振り向いた先に、ミーニンを連れた初老の 男性二人が立っていた。 「キュウッ!」 「こいつら怪獣たちが、ムサシを助けに行かせろとうるさくてね」 冗談交じりに語ったのは、怪獣保護区の鏑矢諸島のイケヤマ管理官。そしてもう一人は、 EYESが最も活躍していた時代にキャップを務めていた、ヒウラ。 「話はフブキから聞いている。地球人が、宇宙に有害な存在になるんだって?」 ヒウラは人間とともに、人間のために戦う怪獣たちの姿を見上げた。 「だが、今繰り広げられている光景こそが、どんな困難があっても夢をあきらめなかった ムサシが出した結果であり、答えだ。ムサシの夢が、あれだけの怪獣たちと心を通わせたんだ。 だから彼らは今、力を貸してくれている! 私たちも、この事態に出来ることがあるはずと ここに集まったんだ」 シノブ、ドイガキ、アヤノの往年のEYESクルーも、戦場から避難する人々を誘導して 助けているのだった。彼らもまた、ムサシとの出会いを通して夢をあきらめないことを 誓った者たちなのだ。 呆然とするルイズの超感覚が、少女の助けを求める声を捉えた。 『誰か助けて!』 「!」 ルイズは反射的に、その現場に向かって超速で移動した。 「コスモス! コスモスー!」 少女は自分の身の危険で助けを呼んでいたのではなく、コスモスと名づけたペットの犬が 瓦礫の下に閉じ込められたのを必死に助けようとしていたのだった。 ルイズは少女に向けて告げる。 「早く逃げるんだ! 犬より自分の命が大事のはずだ!」 しかし少女は聞き入れなかった。 「嫌だ! コスモスは、コスモスは大切な友達なの!」 「……友達……」 ルイズが復唱した時、犬を閉じ込めていた瓦礫が不意に重力を無視して浮き上がった。 「あッ!? コスモス!」 「これは……!」 そして二人の男女が、犬を引っ張り出して救出する。 「君の友達はもう大丈夫だ」 瓦礫を反重力で浮き上がらせたのは、ハサミを持った小柄な宇宙人、チャイルドバルタン・ シルビィ。そして二人の男女はギャシー星人のシャウとジーン。皆かつてムサシが関わった 宇宙人たちであった。 「ここは危ないわ。早く逃げなさい」 「ありがとう!」 犬を受け取った少女はシャウたちに礼を告げたが、ルイズに対しても礼を言った。 「お姉さんも、ありがとう!」 「……私は何もしていない……」 「ううん。あたしを心配してくれたでしょ! だから、ありがとう!」 その言葉を残して、少女は避難していった。ルイズは、シルビィたち三人へと顔を上げる。 「地球とは関わりのない異星人までもが、どうして地球人を助けに来たのだ……」 『ううん。関わりならある』 シルビィは証言する。 『ムサシは、前に私たちの種族と地球人の間の争いを止めてくれた! 大事な友達なの!』 「私たちも、ムサシと地球人たちのお陰で星の命をよみがえらせることが出来た。だから 今度は私たちが地球を助けるの!」 「私も、彼らから夢を信じることを教わった。宇宙正義がどんな結論を出そうとも、私たちは 地球人の夢を信じる!」 ジーンが断言すると、彼らの頭上に深海怪獣レイジャが飛んでくる。 「シャウは地球の人たちのことを頼む!」 「分かった! 頑張って、ジーン!」 ジーンはレイジャと一体化し、レイジャは四肢の生えた戦闘形態になってグローカーボーンに タックルを決めた。 「キュオ――――――!」 そして追撃に衝撃弾の連射を浴びせ、爆破させる。 「……地球のために、これだけの者が立ち上がるとは……」 数多くのものが戦う今の光景に、ルイズはすっかり息を呑んでいる。 「だが……!」 善戦しているように見えた怪獣たちだが、最後に残った二体のグローカーボーンが突如 バラバラに分解したかと思うと、パーツが一つに組み合わさって合体を果たした! グローカーはより大きく、より強く、より攻撃的で冷酷になった第二形態グローカールークと なったのだ! [抵抗スルモノハ、全テ、排除] グローカールークは両肩から光弾を乱射して、怪獣たちを片っ端から薙ぎ飛ばしていく。 「グウワアアアアアア!!」 「グイイイイイイイイ!!」 コスモスとゼロはすぐにその暴挙を止めに掛かる。 『やめろぉぉッ!』 だがグローカールークの前後から放たれる光弾により、二人同時に吹っ飛ばされた。 「ウアアァァァッ!」 暴れるグローカールークにレイジャとリドリアスが空から突っ込んでいく。 「キュオ――――――!」 「ピィ――――――!」 しかし攻撃を仕掛けるより先にグローカールークが高く跳躍し、手の甲から伸ばした鉤爪に より二体を斬りつける。 「ピィ――――――!!」 撃墜された二体の内、リドリアスの方を締め上げるグローカールーク。 [任務ノ障害ハ、全テ、排除] その凶刃がリドリアスにとどめを刺そうとする! 『させるかぁぁぁぁッ!』 そこにゼロが飛び蹴りを決めて、鉤爪を根本からへし折った! 蹴りつけられた衝撃で グローカールークはリドリアスを離す。 「シェアァッ!」 コスモスはコロナモードからエクリプスモードに二段変身! そして三日月状の巨大光刃を 作り出す。 「ハァッ!」 そうして飛ばしたエクリプスブレードは、グローカールークを貫通して綺麗に両断。一気に 爆砕した。 これで地上に放たれたグローカーは全て倒されたかに見えたが……間を置かずに新たな相手が 飛来してきた。 それはグローカーマザー! グローカールーク敗北を受け、遂に衛星軌道上から地表まで 降下してきたのだ。 『まだロボット出そうってのかよ!』 『いや……違うッ!』 グローカーマザーは飛びながら両翼を分解して完全にパージ。そして空の上へと姿を消したかと 思うと……グローカールークよりも更に巨大なロボットと化して降下してきた! [任務ノ障害ヲ、完全ニ消去] それは下位のグローカーでは対処できない相手に対して発動するコマンド。グローカーボーン 製造機能を捨てる引き換えに変形するグローカー最終形態、グローカービショップだ! 地球の全生命リセットの時は、刻一刻と迫っている! 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9048.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第十五話「ひきょうもの!シエスタは泣いた(後編)」 冷凍怪人ブラック星人 雪女怪獣スノーゴン ねこ舌星人グロスト 登場 「ま、また宇宙人! しかも今度は、貴族の屋敷の中に潜り込んでるなんて!」 執事風の老人から正体を現したブラック星人に、ルイズたちは驚愕を禁じえなかった。 まさかトリステインの貴族社会の中に、既に侵略者が潜り込んでいたとは。 『ちぃッ! よもや、こんなことで正体がバレてしまうとは!』 毒づくブラック星人に、ウルトラゼロアイの銃口を突きつけたままの才人が、反対の手で 通信端末からブラック星人のデータを引き出してから詰問する。 「お前もザラブ星人の言ってた、宇宙人連合って奴の一員か!? 貴族のお屋敷に入り込んで、何が狙いだ!」 その問いかけにブラック星人は、正体を暴かれて開き直っているのか、包み隠さず回答する。 『如何にも、私も宇宙人連合の一人だ。しかし私はわざわざウルトラマンゼロに挑んで散っていった 脳の足りん馬鹿どもと違って、独自に動いてるのさ。侵略の足掛かりとする前線基地用の奴隷を 確保することを目的にな!』 「奴隷ですって!?」 ブラック星人の吐いた言葉にルイズなどが身を強張らせ、才人はやはりと胸中で舌打ちした。 ブラック星人はかつて地球侵略を狙った敵性宇宙人の一つで、土星に前線基地を築くという 大掛かりな前準備を行っていた。しかし基地の労働力が足りなくなったために、観光地に遊びに来た 地球人の若いカップルを誘拐して、奴隷にする子供を産ませるという計画を立てたのだ。 今回も似た事情で、今度はハルケギニアの民を奴隷にしようとしていたのだろう。そのために このモット家に使用人として潜り込んで、裏から操っていたに違いない。 『この家の主人は、実に役に立ったぞ。何せ、無理矢理に女どもを連れてきても誰も怪しまんし、 止められんかったからな。女を獲り放題だったわ! グワハハハハハハ!』 何とも下卑た高笑いを上げるブラック星人に、ルイズを始めとした女性陣は強い不快感を表す。 「最低ね! 女の敵だわ!」 「全くね。これ以上女性を家畜みたいにされてたまるもんですか!」 ルイズやキュルケの怒気をその身に受けても、ブラック星人は平然としている。 『ふんッ! 奴隷にしか使えんような下等種族がほざくな! よもやこんなことで我が正体が 露呈するとは想定外だったが、知られたからには貴様ら全員帰す訳にはいかん! 貴様らも捕獲して、 奴隷を産ませる母体にしてくれるわッ!』 ブラック星人が腕を上げると、モット伯を始めとして、屋敷の兵士たちがルイズたちを 取り囲んで武器を向けてきた。モット伯に突き飛ばされたシエスタは慌てて才人の下へ駆け寄る。 「サ、サイトさんッ!」 「くッ……!」 シエスタをかばう才人やルイズは、モット伯の軍団を前にしてひるんだ。彼らは操られているだけなので、 倒す訳にはいかない。しかし既に完全に取り囲まれ、逃げ場はどこにもない。一体どうすればいいのか……。 と考えていたら、 「『ファイアー・ボール』!」 「『ウィンド・ブレイク』」 キュルケとタバサが火炎と風で兵士たちをバッタバッタと薙ぎ倒し出した。それにルイズは 思わず肩を落として、すぐさま抗議する。 「ち、ちょっと何やってるのよ! その人たちは操られてるだけなのよ!?」 するとキュルケはこう反論してきた。 「でも、自分の命には代えられないでしょ。それにモット伯は元から似たようなことして 女性を何人も悲しませてたそうだし、つき従ってた兵士たちも共犯みたいなものだわ。 ちょっとくらい痛めつけても、自業自得ってもんよ」 「いや、だからって……」 「うるさいこと言いっこなしよ。ちゃんと手加減はしてるからさ」 「結構派手に吹っ飛ばしてるように見えるんだけど……?」 ルイズのツッコミはさておき、さすがは魔法学院でも指折りの実力者のコンビ。瞬く間に兵士を全滅させて、 甕の水を操って攻撃してこようとしていたモット伯も、キュルケの炎に軽くあぶられるだけで卒倒し、無力化した。 「なーんだ、丸で見かけ倒しだったわね」 『お、おのれ……よりによって、弱点の熱を操る奴がいようとは……』 「? 今何か重要なことを……」 タバサが向き直ると、ブラック星人は己の失言に気づいて慌てて口をつぐんだ。 『ふ、ふんッ! 今のは軽いお遊びに過ぎんわ。こいつさえいれば、貴様らを纏めて氷漬けに することなど容易いことだからな!』 ブラック星人の言葉とともに、彼につき従っている和装の女性が前に出た。 『やれ、スノーゴン! 奴らをカチンカチンにしてしまえぃッ!』 そして命令によって、口を開くとそこから吹雪と見紛うほどの冷凍ガスを噴出し始めた! 「きゃあああああ!? な、何! あの人、人間じゃないの!?」 「こ、これはたまらないわ! 外に逃げましょう!」 冷凍ガスの勢いはすさまじく、キュルケの炎すら押し返し、あっという間にエントランスホールを極寒地獄に塗り替えた。 『馬鹿め! 易々と逃がすものか!』 すぐに扉から外へ避難しようとするルイズたちだが、スノーゴンと呼ばれた女性が追ってくる。 しかしその足を才人が撃ち、文字通り足止めする。 「みんな! ここは俺が食い止める! 早く逃げるんだ!」 「そ、そんな!? サイトさんだけ残して逃げることなんて出来ません!」 シエスタは才人の指示に応じられずに立ち止まるが、ルイズがその手を取って引っ張る。 「今はサイトを信じて! ここに残ってたら、確実に助からないわよ!」 「でもッ!」 「も、もう限界よ! ダーリンの心意気を無駄にしないためにも、早く逃げるのよ!」 キュルケもシエスタの腕を掴み、二人掛かりで引きずっていった。そしてタバサが『レビテーション』で 気を失ったモット伯たちを連れて脱出すると、ブラック星人が一人残った才人に呼びかける。 『やはりお前が最後に残ったな、ウルトラマンゼロ! 我々を倒して奴らを救おうというつもりだろうが、 そうはいかんぞ! 返り討ちにしてくれるわ! こちらにはその準備がある!』 「へッ……どうかな? ゼロなら、お前らの用意なんて簡単に破ってくれるぜ」 才人はウルトラゼロアイを開き、変身の構えを取った。 『それが出来るかどうか、試してやろうじゃないか! スノーゴン、真の姿となるのだぁッ!』 「望むところだ! デュワッ!」 ブラック星人の命令で、女性の身体が巨大化、変身していくのと同時に、才人もゼロアイを装着した! 「だから! 戻っちゃダメだって! 危険すぎるわ!」 「放して下さい! サイトさんが死んじゃうッ!」 屋敷の外では、無理矢理連れ出されたシエスタが抵抗するのを、ルイズとキュルケが必死に押しとどめていた。 「もう! 貴族の言うことが聞けないっていうの!?」 「今は貴族とか平民とか関係ありません! サイトさんを助けなくちゃ!」 ルイズの言いつけにも、頭に血の上っている今のシエスタには通用しなかった。ほとほと手を焼いていると、 問題の屋敷が彼女たちの目の前で、内側から爆発したかのように砕け散った。 「な、何!?」 「パオオオオ! パオオオオ!」 そして半壊した屋敷の中から、一本角を生やした狼の首にシロクマの胴体を合わせたような 巨大怪獣が出現した。ルイズはこの怪獣に見覚えがあった。以前にゼロにウルトラの星の歴史を 見せてもらった際に、ビジョンの怪獣軍団に混ざっていた一体……。 「デュワッ!」 「あッ! ウルトラマンゼロだわ!」 ルイズたちの眼前に現れた怪獣の正面に、ウルトラマンゼロが降り立つ。すると、どこからか ブラック星人の高笑いがする。 『グワッハッハッ! これがスノーゴンの本来の姿だ! 今から貴様らには、スノーゴンが ウルトラマンゼロをバラバラに処刑するところを見せつけてやるわ!』 「あッ! あんなところに!」 キュルケが指差した先、スノーゴンの背後で、ブラック星人はこちらに向けて叫んでいた。 ルイズは豪語するブラック星人に叫び返す。 「そんなことあるはずがないわ! そんな怪獣一体、ゼロの敵じゃないわよ!」 『そいつはどうかな!? 今に見せてくれるわ! スノーゴン、ウルトラマンゼロを仕留めるのだぁッ!』 「パオオオオ! パオオオオ!」 ブラック星人の命令で、スノーゴンが攻撃を開始する。両手の平を合わせると、その間と口から 先ほどと同等の冷凍ガスを噴射し出した。 『うおッ!?』 そのガスを浴びせられたゼロは、腕で顔面をかばいつつ苦しみ出す。相当ダメージを受けている様子に、 ルイズは衝撃を受けた。 「ど、どうしたのゼロ? あれくらいの攻撃で……」 困惑していると、ブラック星人が理由を説明し出した。 『グハハハハハ! ウルトラ戦士の故郷、光の国には冬がない! だから寒さに耐性がない! つまり冷気がウルトラ戦士の弱点なのだぁッ!』 「そ、そんな弱点があったなんて……!」 無敵の戦士に思われるウルトラマンゼロの意外な弱点を初めて知り、ルイズのみならず キュルケやタバサも驚きを禁じ得なかった。 『そのまま氷漬けにしてやれ! スノーゴンッ!』 「パオオオオ!」 スノーゴンが冷凍ガスの勢いをますます強める。だが、 『くッ……セアッ!』 「パオオオオ!?」 気合いを発揮したゼロがエメリウムスラッシュを放ち、スノーゴンの口の中に命中させた。 それにより、冷凍ガスが途切れる。 『何!?』 『へッ……確かにウルトラ戦士の弱点は寒さだ。けどこの程度の寒さで、この俺に勝ったつもりに なるんじゃねぇぜッ! だぁッ!』 ゼロが掛け声とともに熱を放出し、身体に付着した霜を溶かした。これにルイズたちはほっと安堵の息を吐く。 『今度はこっちの番だ! 覚悟しな、ブラック星人!』 スノーゴンがまだもがいている隙に、ゼロが攻勢に出ようと一歩踏み出す。 だがその瞬間、背後から冷凍ガスを浴びせられた! 『ぐあッ!? 何ぃ!?』 「え!? どこから攻撃が……!」 たった今の冷凍ガスは、正面のスノーゴンからのものでは当然ない。ゼロとルイズたちが振り向くと、そこには、 「ギイイイイイイイイ!」 青い鳥人間に似た奇怪な形をした氷像のような、ゼロたちと同等の身長の怪物がいつの間にか現れ、 右腕から冷凍ガスを噴き出していた。 「て、敵はまだいたの!?」 新手の出現に驚愕するルイズたち。それとは対照的に、ブラック星人が哄笑する。 『グワッハッハッハッハッハッ! 準備があると言っただろう! そいつはグロスト星系JA52番星の宇宙人、 通称グロスト! 計画を遂行する上で、侵略した領土を山分けする条件で手を組んでいたのだ!』 怪物の正体は、かつてウルトラマンタロウと相まみえた侵略者グロスト。冷凍ガスが武器の他にも、 催眠光波で人間を操る能力を持つ。ルイズたちは知らないが、モット伯を洗脳して手駒にしていたのは、 このグロストだったのだ。屋敷と同化して身を隠していたのだが、本来の姿を現してスノーゴンに 加勢してきたのだった。 「ギイイイイイイイイ!」 『うおおぉぉッ! くッ、こいつはやべぇ……!』 グロストの冷凍ガスもすさまじく、スノーゴンと同等か下手したらそれ以上だった。 更には背後から攻撃されていることもあり、さしものゼロも耐え難かった。 「パオオオオ! パオオオオ!」 しかもまだ戦況は悪化する。スノーゴンが持ち直し、攻撃を再開し出したのだ。前後から 冷凍ガスの挟み撃ちにされ、ゼロは大幅に苦しめられる。 『うおああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』 「ゼロッ!!」 身体を抱えるゼロのカラータイマーが赤く点滅し出す。彼の危機に焦ったルイズは、ブラック星人を罵る。 「卑怯者! 男なら正々堂々と、自分の力で勝負しなさいよ!」 だが挑発をされても、ブラック星人は平然と厚顔でいる。 『何とでも言えぃ! たとえ自ら手を汚さずとも、何人で掛かろうとも、勝利こそが全てだッ! 手段など選んで敗北する奴など、愚かでしかないのだぁッ!』 そう豪語した瞬間に、ゼロを追い詰めているグロストに楔形の光弾が連続ヒットして、 冷凍ガスを途切れさせられた。 「ギイイイイイイイイ!」 『な、何事だ!?』 ブラック星人やルイズたちが驚いていると、半壊した屋敷の陰から、銀と緑色の巨人がおもむろに登場した。 『では、こちらも二人になっても文句はありませんね?』 「ミラーナイト!!」 ルイズが感激して名前を呼ぶ。緑色の巨人は、アルビオンで絶体絶命のゼロを救った ウルティメイトフォースゼロの一員、ミラーナイトであった。ゼロのピンチを察知して、 屋敷のステンドグラスを通ってここにやってきたのだ。 『な、何ぃ!? ウルトラマンゼロに仲間がいたのか……!』 一方、ブラック星人はハルケギニアに降り立ったばかりのミラーナイトのことはまだ知らなかったようで、 ショックを受けていた。スノーゴンとグロストも動揺して攻撃の手を止めている間に、ミラーナイトは ゼロと背中合わせになる。 『ゼロ、あの宇宙人の方は引き受けました。あなたは怪獣の方をお願いします』 『ああ……また助けられたな、ミラーナイト』 『当然のことじゃないですか。それより、来ますよ!』 ミラーナイトとゼロが言葉を交わしている間に、スノーゴンとグロストが再度襲い掛かり始める。 「パオオオオ! パオオオオ!」 「ギイイイイイイイイ!」 『ふ、ふんッ! まだ数が同じになっただけだ! スノーゴン! グロスト! お前たちの恐ろしさを 見せつけてやれぇッ!』 スノーゴンは再び両手と口から冷凍ガスを噴射する。するとゼロは、下手に逃げようとせず、 前に飛び出して自分から冷凍ガスへ突っ込んでいった。 『だぁッ!』 それによって無理矢理ガスを突破し、スノーゴンの懐に入ることに成功する。そして胸部に横拳を叩き込んで、 ガスの噴出を止めさせた。 「パオオオオ!」 『うらッ!』 よろめいたスノーゴンに掴みかかるゼロだが、スノーゴンも手を伸ばし、両手と両手で掴み合いになる。 『ぐッ……ぐぅぅぅ……何つう馬鹿力だ……!』 「パオオオオ! パオオオオ!」 だがゼロの腕の方が、スノーゴンにひねられていく。スノーゴンは冷凍ガス攻撃も強力だが、 腕力も氷漬けにしたウルトラマンジャックの身体を素手でバラバラにするほど優れている。 遠距離でも、近距離でも強い、顔つきに似合わないほどのかなりの強敵怪獣なのだ。 「パオオオオ! パオオオオ!」 『うおおぉぉッ!』 やがてゼロはスノーゴンに突き飛ばされ、すぐに起き上がったものの三度冷凍ガスを浴びせられて 悶絶する羽目になった。 「ギイイイイイイイイ!」 『くぅッ!? ま、まるで嵐のような冷凍ガスを……!』 ミラーナイトの方も、グロスト相手に大苦戦を強いられていた。グロストの猛烈な勢いの冷凍ガスを前に、 得意の俊敏な動きを基にした撹乱戦法が取れずにいる。ディフェンスミラーで防御しようにも、何と鏡まで 凍ってしまって砕ける始末だった。 『ここにグレンがいれば……楽に勝負を進められたのでしょうが……』 極低温を武器にする敵に、仲間のグレンファイヤーに思いを馳せるミラーナイト。炎と熱の戦士である 彼ならば、今の敵たちに有利を取れたのだが、いないのだからどうしようもない。 ゼロもミラーナイトも苦戦しているのを見せられたルイズたちの内、キュルケが我慢ならずに 杖を手に取った。 「このままじゃまずいわ! 援護するわよ! タバサ、手伝って!」 タバサはうなずくが、ルイズが二人のことを案じて尋ねかける。 「で、出来るの?」 「敵は氷を武器にしてるわ。だったらあたしの炎が少しは役に立てるはずよ。タバサの協力があれば尚更だわ。 さぁタバサ、力を合わせるわよぉ!」 「分かった」 キュルケがグロストへ杖を向けると、先端から激しい火炎が噴射する。その炎は、タバサの起こす 旋風によりもっと勢いを増して、炎の竜巻になって巨大なグロストへ飛んでいく。 「ギイイイイイイイイ!」 するとどうだろうか。炎の竜巻を受けた途端、グロストの身体の突起が崩れ、溶けていくではないか。 「嘘!? すっごい効いてるわ!」 これには、攻撃を仕掛けたキュルケが驚かされた。せめて足止めになればという程度にしか 考えていなかったので、あの巨大生物の身体を破損させるほどに通じるとは思ってもいなかった。 というのも、理由がある。グロストは熱がほとんど存在しない超極寒の環境の星に生きる生命体であり、 体組織が氷に限りなく近い。そのため冷気攻撃は怪獣界の中でも強烈だが、熱と炎には丸っきり耐性を持たない。 何と焼き芋の熱でひるんだことがあるほどなのだ。それが、キュルケとタバサの作り出す炎の竜巻に 耐えられる訳がなかった。 「まッ、効くんだったらそれに越したことはないわ。このままガンガン攻めるわよ!」 勢いに乗ったキュルケとタバサは、そのまま炎の竜巻を食らわせ続ける。それにより、 高熱に晒されたグロストの身体は瞬く間にドロドロに溶けていき、冷凍ガスの勢いも 見る影がないほどに衰えた。 「ギイイイイイイイイ……!」 『! 今です! シルバークロス!』 それによって持ち直したミラーナイトは、すかさず必殺の十字の光刃を放った。シルバークロスは グロストの身体を四つに分断し、地面の上に転がす。その破片も、ミラーナイフで粉々に砕かれた。 『ありがとう、ゼロの友人たちよ。あなたたちのお陰で助かりました』 ミラーナイトは助けてくれたキュルケたちにガッツポーズを見せ、感謝の気持ちを表現した。 「きゃあ! あのミラーナイトっていう戦士、あたしたちにお礼を言ってるみたいよ!」 その気持ちはちゃんと伝わり、キュルケははしゃいで喜んだ。 「パオオオオ! パオオオオ!」 『うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』 だが喜んでばかりもいられなかった。スノーゴンと戦っていたゼロは、冷凍ガスに全身を覆われて その姿が見えなくなった。 「!? ゼロぉッ!!」 『グハハハハハ! グロストがあんな役立たずとは思わなかった! だがウルトラマンゼロの方は、 我がスノーゴンがカチンカチンに凍らせてやったぞ!』 ルイズが絶叫し、ブラック星人はもう勝ったものと思って豪語した。が、 『なーんてなッ!』 『何ッ!?』 するはずのないゼロの声が響き、驚愕させられる。そして冷凍ガスが晴れると、そこにあったのは、 『た、盾だとぉ!?』 青と赤、銀色のゼロのカラーで彩られた盾が宙に浮いていた。これはウルトラゼロランスと同じく、 ウルティメイトブレスレットの機能の一つ、あらゆる攻撃を遮るウルトラゼロディフェンダーである。 かつてのスノーゴンは、これの前身であるウルトラディフェンダーが決め手となって ウルトラマンジャックに敗れ去ったものだ。 しかし盾で身を守ったはずのゼロの姿がない。スノーゴンが左右を見回していると、頭上から呼び掛けられた。 『こっちだぜ!』 ゼロはスノーゴンの頭上で、ウルトラゼロキックを仕掛けるところであった。 『フィニィッシュッ!!』 「パオオオオ!!」 最早スノーゴンにかわす手立ても防ぐ手立てもなく、必殺の飛び蹴りをもろに食らった。 火達磨になったスノーゴンは弧を描いて飛んでいき、地面に激突したと同時に爆散した。 『な……あ……ひええぇぇぇぇぇ!』 グロストとスノーゴン、双方を倒されたブラック星人は、傲然とした態度をかなぐり捨てて 一目散に逃走しようとした。しかしゼロがこんな極悪非道な侵略者を見逃すはずがなかった。 「シャッ!」 『あぎゃああああ―――――――――――――!!』 緑色の光弾、ビームゼロスパイクの一撃を撃ち込まれ、ブラック星人はあえなく爆死した。 これでモット家に巣食っていた魔の手は一掃された。 「ジュワッ!」 「ハッ!」 敵がいなくなった以上、ゼロとミラーナイトがこれ以上留まる必要はない。彼らは空中に飛び上がると、 二人並んで空の彼方へ去っていった。 悪は去った。しかし、助かったというのにシエスタだけは、その場にしゃがみ込んでほろほろと涙を流していた。 「ああ、サイトさん……私のせいで、犠牲になって……ごめんなさい、ごめんなさい……」 どうやらシエスタは、才人が自分たちを逃がす際に死亡したものと思っているようだった。 そこにルイズが、おずおずと声を掛ける。 「あ、あのね? 泣くのは早いんじゃない? 何も、サイトが死んだと決まった訳じゃないんだから……」 というより、死んだはずがないのだ。だってたった今まで、そこで元気に戦っていたのだから。 だがそれを知る由もないシエスタの説得は無理だった。 「いいえ! あの状況で助かるはずがないじゃないですか! それこそ、奇跡でも起こらない限り……」 「おーい、みんなー!」 言葉の途中で、当の才人が屋敷の瓦礫を踏み越えて、ひょっこりと姿を現した。 「あッ、ダーリン! 無事だったのね! 信じてたわ!」 「不死身……」 「いやぁ、危ないところをゼロに助けられたんだ。今回ばかりは肝を冷やしたぜ。寒かっただけに。なーんて」 つまらない冗談を言っている才人の姿をまじまじと見たシエスタは、ポカーンと口が開いていた。 「そうだシエスタ! そっちこそ無事だったのか? モット伯、っていうか宇宙人たちに ひどいことされなかっただろうな?」 才人が呼びかけると、固まっていたシエスタは、いきなり才人に抱きついた。 「わぁぁぁッ!? シ、シエスタ!?」 「サイトさーん!! ご無事でよかったですぅぅぅぅぅ! 奇跡が、奇跡が起こったんですねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」 シエスタが抱きついたことに、ルイズは目を白黒させて、そして真っ赤になって怒り出した。 「こ、こらメイドぉッ! あんた何しちゃってるのよぉ! さっさとサイトから離れなさいよッ!」 「嫌ですッ! もう離しません! サイトさんをどこにもやったりしませんから!」 「な、何言ってるのあんた!? サイトッ! あんたこそ離れなさい! 早くしないと百回鞭打ちの刑だからね!!」 「そ、そんな理不尽な!!」 ルイズが怒鳴り散らし、才人が悲鳴を上げる構図を目にして、顔を見合わせたキュルケとタバサは 呆れて肩をすくめた。 とまぁ最後はドタバタしたものの、モット伯の件はこれで丸く収まった。後日判明することだが、 モット伯は操られていた時の記憶がおぼろながら残っており、それがトラウマになって 女性恐怖症の後遺症が残ったのだとか。まぁそのお陰で、彼の悪癖がなりを潜めたそうだから、 雨降って地固まるといったところか。 「ルイズ、本当にありがとうな。お陰でシエスタを救うことが出来たよ」 そして学院の寮に帰ると、才人はルイズに一連のことの礼を述べた。それにルイズは そっけない風に返答する。 「別にいいわよ。ご褒美代わりって言ったでしょ? それに、結局あんまり役には立てなかったし…… ほとんどキュルケやゼロたちが解決したようなもんだったしね……」 「そんなことないさ。お前が最初に協力してくれなかったら、あの屋敷に入ることも出来なかったかもしれないんだから」 悔しそうなルイズを励ますように告げる才人だが、それでもルイズの気持ちは軽くならなかった。 何故なら、自分のやったことは「他の者にも出来たこと」なのだから。 (たとえばキュルケでも、わたしのやった屋敷の中に通すことは出来たはずだわ。けど、 キュルケのやったことでわたしに出来たことはない。……キュルケとタバサ、あんなに 強力な魔法が使えていいな……どうしてわたしには、何の魔法も使えないんだろう……) 魔法の使えない自分と比べて他のメイジを嫉妬したことが何度もあるルイズだが、今回ばかりは、 純粋にキュルケたちの才能を羨ましがった。 その指に嵌められた『水のルビー』が、誰にも知られることなく、キラリと輝きを放った。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9189.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第六十二話「悪鬼ヤプール」 異次元人ヤプール人 登場 ヤプール人は恐ろしい奴だ。残忍な奴だ。ハルケギニアを征服するためには手段を選ばない。 何だってやるのだ! それがまさに、ヤプール人なのだ。 ハルケギニアに数々の侵略宇宙人を引き入れた後、ヤプール人は『レコン・キスタ』の クロムウェルを抹消。己の手駒とすり替えて、アルビオン大陸を裏から支配することに成功した。 そしてトリステインに戦いを仕掛け、その結果トリステインとゲルマニアの連合軍がアルビオンに 攻めてくることとなった。しかし、侵攻の際にはあの手この手を駆使してトリステインを 苦しめたにも関わらず、防衛に回ったら一転、いやに消極的な態度を見せた。連合軍に大きな 打撃を与えようともせず、遂にはロンディニウムの手前のサウスゴータを明け渡した。わざわざ敵に 勝利の美酒を振る舞って、ヤプール人は何をたくらんでいるのか? 何をするつもりなのか? 『誰にも分からない……分かるはずがないんだよ! ハルケギニアの馬鹿どもめッ! フハハハハハハハハ!!』 トリステイン・ゲルマニア連合軍が放棄されたシティオブサウスゴータを占領した直後、 タイミングを図ったかのようにアルビオン側から一時的な休戦の申し出があった。ヘンリーの 予想した通り、見捨てられた市民に兵糧を分け与えた連合軍はどの道動けず、これを受諾。 戦線は硬直状態のまま、始祖の降臨祭が行われようとしていた。 始祖ブリミルの降臨祭。それは地球で言うところの、クリスマスと元旦が一緒になったような 祝日である。この日を境に年が変わり、十日近くのめや歌えのお祭りが連日開催される。 戦闘行為も、その期間は一切行われないのが通例だ。 アルビオン大陸に上陸した連合軍も、その祭りをサウスゴータで迎えようとしていた。 「……そういう訳で、サイトを元気づける方法の知恵を出してほしいのよ」 今年の終わり、始祖の降臨祭の前夜のサウスゴータの宿の一室で、ルイズがデルフリンガーと 姿見の中のミラーナイト相手に相談を持ちかけていた。 雪山での二大超獣との戦闘後、ゼロの足を引っ張った才人は未だに塞ぎ込みがちであった。 初めは見放していたルイズも、だんだんと心配するようになって、こうして二人に相談をしているのである。 「何でえ。娘っ子、何だかんだで相棒のことがすげえ気がかりなんじゃねえか。初めっから 素直になっときゃ、こんなお祭りの目前まで険悪のまま過ごさなくてよかったってのによ」 デルフリンガーが呆れたように言うと、ルイズは真っ赤になって否定した。 「ち、違うわよ! あんな分からず屋のことなんて、本当はどうだっていいのよ! でも、いざ決戦って時に ゼロが本領を出せなかったら大変じゃない! だから仕方なく、ご主人さまが励ましてあげるってだけ! そ、それだけなんだからね! 誤解しないでよ!?」 「へいへい」 デルフリンガーもミラーナイトも呆れ返って流した。ルイズはあまりにも分かりやすすぎるが、 天性の意地っ張りなので付き合っていたら夜が明けてしまう。 「コホン……話を戻すけれど、私はやっぱり、貴族の価値観というものをサイトに受け入れさせるのが 一番だと思うのよね。デルフ、あんたはサイトを説得できないの? 相棒でしょ?」 まずデルフリンガーに言いつけるルイズだが、彼はあっさりと答えた。 「そりゃ無理だね。俺っちは坊さんじゃねえんだ。説教を説くなんて無理な話よ。第一、時間も なさすぎるさね」 「そう……じゃあ、ミラーナイトはどうかしら? お願い出来ない?」 今度はミラーナイトに頼む。理知的な彼ならば何か良い意見をもらえるかも、と思って この場に呼んだのだ。 しかし、彼もまた首を横に振った。 『私でも、それは難しいですね。全く異なる価値観を理解させるというのは大変困難なこと。 ましてや言葉だけでは如何ともしがたいものです』 「そうなの……残念ね」 『そもそも、その貴族の価値観というものが本当に根づいているものなのか……』 ミラーナイトのぼやきに振り返るルイズ。 「何? あなたまでそんなことを言うの?」 『いえ……この話をここで論じても仕方ないことです。それより今はサイトのこと。そちらに注視しましょう』 とミラーナイトが言うので、本題に戻る。すると、デルフリンガーがこんな提案を出した。 「いっそのこと、別方向から相棒を攻略してみるってのはどうだ?」 「べ、別方向?」 「相棒はお前さんを好いてる。お前さんの実家で告白されたの、忘れた訳じゃあるめえ」 その時のことを思い出し、ルイズは耳まで真っ赤になった。 「それなのにお前さん、相棒の気持ちになーんも応えてねえじゃねえか。好きな相手から袖にされ続けて、 それなのに嫌なことに駆り出されてこき使われて。それじゃ嫌になっちまうのもしょうがねえな」 「だ、だってそれは、あれからずっと忙しかったからだし……何よりシエスタとか、他の子に デレデレするじゃない!」 ルイズの言い分に、はあ、とため息を吐くデルフリンガー。 「相棒がギーシュとかって坊主みてえに自分から誰かとベタベタしたってのなら話は別だが、そんなんねえよ。 俺が保証する。それなのにお前さんは、ちょっと他の女が近づいただけであーだこーだ、わがままが過ぎるよ」 「う……」 「いい女ってのは、もっと心が広いもんだぜ? そこで、だ。そろそろ相棒の気持ちに応えて やったらどうだ。相棒も好きな女に頷いてもらえたら、頑張れるだろうよ」 と勧められるのだが、ルイズはもじもじしてはっきりとしない。 「そ、そんなこと言えないわよ……」 「嫌いなの?」 「そ、そうじゃないけど……」 「じゃあ好きなんじゃねえか」 「そ、そうじゃないの! とにかくそんなこと言えないわ!」 意固地なルイズは、ミラーナイトにも意見を求める。 「ミラーナイトはどう思う……?」 『あなたの気持ちの是非はともかく、サイトの心の糧を作るのはいいことだと思いますよ』 ミラーナイトもデルフリンガーの味方なので、孤立無援のルイズは散々悩んだ挙句、こう聞いた。 「……も、もっと別の言い方ないの?」 と言うので、デルフリンガーは代案を出した。 「そばにいて」 「なにそれ?」 「いい言葉じゃねえか。微妙に気持ちを伝え、それでいてどうとでも取れる。これならお前さんも 言いやすいだろ?」 ルイズはふむ、と考え込んだあと、頷いた。 「……言われてみればもっともかもしれないわね。あんた、剣のくせに妙に人間の機敏に通じてるわね」 「何年生きてると思ってんだよ。さて、あとはあれだ、言い方と状況だな……」 しばらく後、ルイズはデルフリンガーの指導により、宿屋の召使に買ってこさせた品々を前に並べていた。 「ちょっとぉ! ふざけないでよ!」 が、ルイズはデルフリンガーを怒鳴りつけていた。 「なんで黒ネコの格好しなきゃいけないのよ! しかもこんないやらしい! わたし貴族よ貴族! わかってんの?」 ルイズの前にあるのは、黒ネコの仮装。しかも際どい。 そのことについて、デルフリンガーはこう弁解する。 「その高飛車がなあ、いけねえんだ。甘えた感じで、下手に出るのが一番効果的ってもんよ」 「そんでわたしが使い魔のフリするっていうの?」 「そうだよ。いい作戦じゃねえか。祭りの席で『サイト、今まで意地悪言ってごめんね。 今日は一日わたしが使い魔になってあげる』それから『そばにおいてください』なんて言ってみ? たぶん相棒は単純だから、舞い上がってお前さんにメロメロになっちまうだろうなあ」 と囁かれて、単純なルイズはすっかり舞い上がってしまった。 そしてデルフリンガーに焚きつけられるまま、ポーズと台詞の練習をする。 「き、今日はわたしが使い魔になってあげるッ!」 「うーん、もちっとネコっぽく言ってみた方が愛嬌があるな。後、思い切ってご主人さまって 言ってみたらどうだ?」 『あ、あの……』 そこにミラーナイトが何かを言おうとするのだが、熱中しているルイズたちには聞こえていなかった。 「そ、そこまで言わないとダメなの!?」 「せっかくのお祭りなんだからよ、一日だけバカになってみ。女にはな、そういう愛嬌が大事だよ。うん」 『ルイズ、そこまでサイトと……』 才人の名前を出して、やっとルイズの耳に入った。 「サイトが戻ってきてるの!? よ、よぉーし……思い切ってやってやるわよッ!」 『そ、そうではなく、サイトとシエ……』 だが才人以外の言葉は耳に入っていなかった。ドアががちゃりと開くと同時に、ルイズは 思い切って言い放った。 「きょきょきょ、きょ、今日はあなたがご主人さまにゃんッ!」 そして……返ってきたのは、 「な、なにやってんだ? お前……」 才人の驚き顔と……シエスタとスカロン、ジェシカの面々。唖然としている。ジェシカなんか 笑いをこらえている。 「……え? な、何でシエスタたちがここに……」 「慰問隊とか何とかってので、ここに来たそうで……ついでにルイズに挨拶しに……」 才人が説明した。 恥ずかしい姿を思い切り他人に見られたルイズは、絶叫した。 「いやぁああああああああああああああああああああああああああああああッ!」 街の一等地に位置した、シティオブサウスゴータの最高級の宿屋のいわゆるスイートルームで、 アンリエッタが窓の外を眺めた。 「今、遠くから悲鳴が聞こえたような……。まさか、敵の攻撃でしょうか? すぐに銃士隊を向かわせましょう」 神経質そうにつぶやくと、同じ部屋にいるグレンが肩をすくめた。 「いや、今のは敵とは関係ねぇよ」 「そうでしたか? それならいいのですが……」 視線をグレンの方に戻したアンリエッタが、今話していた内容に意識を戻す。 「それで、わたくしたちを何度も苛ませた侵略者たちの元締め……ヤプール人というものたちは、 それほどに恐ろしい敵ということでしたね」 「ああ、そうだ。奴らはこれまでの連中とは訳が違うんだ。あんまり恐怖したら逆効果だから今までは 話してなかったけど、決戦の手前、どういう連中かアンリエッタ姫さんは知っておくべきってことになってな」 ヤプール人は表舞台に出てきたのが一度きりなので、ハルケギニア人にはその存在が知られていない。 しかし今、遂にグレンがその存在をアンリエッタに明かしたのだった。 「ヤプール人はとにかく卑怯な連中だ。手段という手段を選ばねぇ。生誕祭の人間が一番油断する期間を 狙わないはずがないぜ。たとえば、飲み水に毒を投げ込むくらいのことは平気でやる。だから祭りの最中でも、 絶対に警戒を緩めないでほしいってお願いしに来たんだ」 グレンたちが最も危惧していることは、ヤプールもしくはその手の者が連合軍の間に入り込み、 内部から崩壊させられることであった。ヤプール人は超獣を使った大規模な攻撃以外にも、 そういう卑劣な破壊工作を得意とするのだ。 しかし、アンリエッタに恐れの色はなかった。 「ご忠告感謝いたします。しかし、ご心配には及びませんわ。わたくしもその危険性を考慮し、 厳重に対策しております」 と語って、内容を説明する。 「停戦の期間中は、わたくしの信頼する銃士隊を中核とした警備網をこのシティオブサウスゴータ全土に 隙間なく張り巡らせ、怪しい動きを見せる者は逐一捕縛して正体を確かめるよう徹底して指示しています。 ネズミ一匹の謀とて見逃しません。また、いつ何時に怪獣の攻撃があっても対抗できるように、魔法衛士隊他の 対怪獣部隊を常時待機させています。わたくしたちの出来得る最善の対策を取っておりますわ」 一分の隙もない防備態勢。何度も怪獣、宇宙人の脅威を目の当たりにしたアンリエッタは 既にそれを敷いていた。さしものヤプール人も、突破は容易ではないレベルだ。 その力の入れようには、絶対に侵略者に勝利して平和を取り戻すのだという決意が表れていた。 「そっか、ならいいんだ。安心したぜ」 グレンはそう言ったが、それでも相手が相手なだけに、安堵とまではいかなかった。人間がどれほど頑張ろうと、 敵は力に物を言わせて強引に押し潰そうとしてくるだろう。そしてヤプール人はそれが可能な相手なのだ。 しかし、そんな時にこそ自分たちがいる。人間の努力を無為にしてはならない。ヤプールめ、来るなら来い! 俺たちウルティメイトフォースゼロは絶対に負けねぇぜ! グレンは胸の内に、そんな熱い思いを抱いていた。 あのあと、ルイズがものすごい勢いでへこんで閉じこもってしまったので、才人とシエスタは 彼女が落ち着くまでわざわざ別の部屋を借りて、そこで時間を過ごしていた。そしてゼロ、 ジャンボット、ミラーも交えて話をする。 『なるほど、ルイズのあの珍妙な振る舞いは、そういう理由だったのか』 ミラーから説明を受けたジャンボットがつぶやくと、ミラーが取り成す。 「珍妙とか言わないであげて下さい。ルイズも、サイトのためを思って必死だったんですよ。 サイト、ルイズのその想いだけは分かってあげて下さい」 ミラーに続いて、ゼロも才人を説得する。 『才人、お前もあれこれ複雑な気持ちだと思うけどさ、何もルイズも悪気があって厳しいこと 言うんじゃないんだぜ。この戦が終われば、いつものルイズさ。だからそう思い悩むなって』 「うん……」 それは分かっているけど……と才人が思った時、シエスタが口を開いた。 「わたしは……ミス・ヴァリエールや貴族の言い分の方が、納得できません」 「シエスタ?」 シエスタは才人の目をじっと見つめながら語った。 「サイトさんの言う通りです。どんなに言葉を飾っても、結局貴族は自分たちの欲のために 人を殺すんです。そんな殺し合いに、サイトさんを巻き込むなんて……。本来サイトさんは、 この世界に何の関係もない人なのに……ひどすぎますッ! サイトさんが、死んでしまうかもしれないのに!」 あまりにシエスタに熱が入っているので、才人はむしろ戸惑ってしまった。おどおどとした様子で 彼女をなだめる。 「し、シエスタ、気持ちは嬉しいけどさ……俺にはゼロがついてくれてるんだし、滅多なことには ならないよ。ヤプールだって、ウルティメイトのみんながいればきっと勝てるから」 シエスタは少々落ち着いたが、小刻みに震えていた。 「すみません……。でもわたし、心配なんです。すぐ下の弟も参戦してるから、他人事じゃないですし…… 何より、嫌な予感がするんです」 「嫌な予感?」 「はい……。サイトさんに、なにかよくないことが起こるんじゃないかって。そんな嫌な思いが してならないんです……。今連合軍が勝ってるのも、何か悪いことが起こる前触れとも思えて……」 それは、ゼロたちも考えていることだ。むしろ、確信を持っていると言ってもいい。ヤプールは絶対に 何か謀略の用意をしている。今の快進撃は、その嵐の前兆でしかないと。 しかし彼らは、シエスタのためにこう呼びかける。 『シエスタ、安心するのだ。サイトの言った通り、我々がいる。こんな勇敢な少年を、ヤプールの餌食に させたりはしない。我々が何としてでも助け、守り抜く! 鋼鉄武人の名に懸けて誓おう』 「その通りです。私たちが命の盾となります。そのためのウルティメイトフォースゼロです」 『俺たちは何があろうと、絶対に負けねぇ! シエスタ、俺たちを信じてくれ!』 「皆さん……」 ジャンボット、ミラー、ゼロに続いて、才人もシエスタを軽く抱きしめて、彼女に囁きかけた。 「シエスタ、ありがとう。君を守るためだけでも、俺は存分に戦える気がしてきた」 「サイトさん……」 「どんな敵が相手でも、俺は必ず帰ってくるよ。そして学院に帰ろう。絶対に」 「……はい……!」 いつしか、窓の外には雪がはらはらと降り始めていた。銀の降臨祭といったところか。 幻想的な背景の中、サイトとシエスタは約束を交わした。 様々な人たちの、様々な想いが行き交う中、新年の始まり、始祖の降臨祭は幕を開けようとしていた。 しかし……異次元の悪鬼ヤプールは、そんな人々の想いを嘲笑うかのように、彼らの想像を絶する おぞましき奸計を張り巡らしているのだった! 夜空に満開の花火が打ちあがる。シティオブサウスゴータに並ぶ人々は、連合軍、町民関係なしに 一様に歓声をあげた。 遂に一年の始まりを告げるヤラの月、第一週の初日である、降臨祭の初日が始まったのである。 しかしそれとほぼ同時に、連合軍首脳部には凶報が飛び込んできた。ロンディニウムにいるはずの アルビオン軍主力が、突如としてサウスゴータのすぐ側に出現したと。 ヤプールの手引きである。異次元人の力をもってすれば、その程度の奇襲は容易いことなのだ。 だがしかし、通常なら恐るべきことであるこの事態も、アンリエッタたちにはさほど驚くべき ことではなかった。何故なら、相手は神出鬼没の侵略者。十分予想できたことであり、実際そのための 厳重な防備態勢である。迎撃態勢はすぐに完了した。 これ以上何も起こらなければ、問題なく迎撃できる計算であった。そのため、連合軍には余裕すらあった。 「侵略者の犬どもめ、その程度で聡明なる女王陛下を出し抜いたつもりか。貴様らを一人残らず 返り討ちにして、我々の大々的な勝利で降臨祭の最初の夜明けを飾ってやろうではないか」 連合軍総司令官のド・ポワチエは冷笑を浮かべながら、黒檀にトリステイン王家の紋章を金色で 彫り込んだ元帥杖を振るった。彼はつい先程、元帥昇進が決定したばかりなのであった。最後の決戦を、 元帥杖で指揮させてやろうという財務卿の計らいであった。 そして今にも両軍の激突が始まろうとしたその時、それは起こったのだ! シティオブサウスゴータの夜空の一画が、バリィィンッ! とガラスのように割れた。 そして真っ赤な空間の中から、大怪獣が空の縁をまたいで出てくるところを大勢の人間が目撃した。 「キィ―――キキキッ!」 緑の怪しく輝く眼球を持った虫型の超獣、アリブンタだ。ヤプールの刺客である。さすがに方々から 悲鳴の叫びが起こる。 「超獣が現れやがったか!」 「ええ。私たちの出番ですね!」 そこに駆けつけたのがグレン、ミラー、そしてシエスタと才人だ。ウルティメイトフォースゼロは、 これより超獣撃退のために出撃する。 それと同時に、ヤプールとの決着をつけるつもりであった。その手段は、ヤプールの潜む異次元に 直接乗り込むこと。通る道は、超獣を送り込むためにヤプール自身がつなげるあの空の穴だ! 危険はあるが、 強引にでも入り込んでヤプール自体を叩く。虎穴に入らずんば虎児を得ず。その覚悟で挑まなければ倒せない相手である。 『超獣を撃破したら、俺たちの力を合わせて空の穴を固定する。そして一挙に乗り込むぞ!』 「はい!」『了解した!』「おうッ!」 ゼロの呼びかけに三人が応答し、一斉に出撃しようとする。 しかしそれを制するかのように、別の方角で空がバリィィンッ! とまた音を立てて割れた。 「ギ―――!」 今度は腹に丸鋸を、背に翼を生やした直立するトカゲのような超獣、カメレキングである。 「二体目ですか!」 ミラーが叫んだが、そうではなかった。更にバリィィンッ! と別方角の空が割れ、また別の超獣が出現する。 「カァァァァァコッ!」 緑色の鱗で全身を覆った魚に似た超獣、ガランである。 更に別方向からバリィィン! と音が響いた。 「パオ――――――――!」 ワニの顔面を持った特に巨体の超獣、ブロッケンだ。 「四体出てきたか……! けど俺たちは負けねぇぜ!」 一気に現れた四体の超獣。だが予想できなかった訳ではない。元より一体二体だけが出てくるとは 思っていない。複数の超獣を相手にする気概は既に出来上がっている。 だが――。 バリィィンッ! バリィィンッ! バリィィンッ! 『えッ!?』 バリィィンッ! バリィィンッ! バリィィンッ! 「なぁッ……!?」『ま、まさか……!』 バリィィンッ! バリィィンッ! バリィィンッ! 「お、おいおい……! これって……!」 空の割れる音が止まらない。 ゼロが、ミラーが、ジャンボットが、グレンが、大勢の人間が……その光景に絶句した。 たちまちの内に、シティオブサウスゴータを超獣が取り囲んだのだ! 「ガガガガガガ!」「バ―――オバ―――オ!」「ガアオオオオオオ!」「ギュウウゥゥゥゥゥ!」 「キィィ――――――!」「ギョロオオオオオオ!」「キャ――――――オォウ!」「ホォ―――!」 「キュウウウウッ!」「キョーキョキョキョキョキョ!」「グオオオオッ!」「グゴオオオオオオオオ!」 「ゴオオオオォォォォ!」「ギャア――――――――!」「カアァァァァァァ!」「キャオォ――――――!」 「ブウルゥッ!」「キャアァ――――――!」「キョキョキョパキョパキョ!」「ギギギギギギ!」 「ギギャ――――――アアア!」「キュルウ―――!」「グオオオォォォ!」「ゲエエゴオオオ!」 「キャア――――オウ!」「キョキョキョキョキョキョ!」「グロオオオオオオオオ!」「キャアアアアア!」 「アオ――――――!」「キュルウウウウ!」 ガマス、ザイゴン、ユニタング、サボテンダー、バラバ、キングクラブ、ホタルンガ、 ブラックピジョン、キングカッパー、ゼミストラー、ブラックサタン、スフィンクス、 ルナチクス、ギタギタンガ、レッドジャック、コオクス、バッドバアロン、カイテイガガン、 ドリームギラス、サウンドギラー、マッハレス、カイマンダ、フブギララ、オニデビル、 ガスゲゴン、ダイダラホーシ、ベロクロン二世、アクエリウス、シグナリオン、ギーゴン……! 「ギギャアァァァ――――――!」 そしてジャンボキング! 総勢三十五体もの超獣にシティオブサウスゴータを囲まれる状態と なってしまった! ウルティメイトフォースゼロは……一つの思い違いをしてしまっていた……。それは、ヤプールの 軍勢の規模である。 今日までに多くの侵略宇宙人を撃破したことで、無意識の内に敵を追い詰めているという考えを 持ってしまっていた。また、魔法学院襲撃の際、刺客として差し向けられた超獣が四体だったので、 控えの超獣もそう多い数ではないと思い込んでしまった。あの場面で出し惜しみするはずがない、と……。 だが事実は全くの逆だった! ヤプールは軍団の規模を隠すために、あえて少ない数を出してきたのだ! 宇宙人やベロクロンらは犠牲を前提として送り出されたのだった! そしてアルビオン軍出現を知る者たちは、恐ろしい考えに行き当たっていた! これだけの数の超獣がいるのだったら、アルビオン軍は必要ない。むしろ戦いの邪魔となる存在のはず……。 それをわざわざ送り込んできたということは……。 ああ、何ということだ! 彼らは戦いのためではなく……超獣の贄にされるためにここへ来たのだ! 『フハハハハハハハハハハ! 人間どもめぇ、絶望したかぁ!!』 ヤプールは、異次元の虚空の中でけたたましい哄笑を上げていた……。 『これから始まるのは戦ではない……。貴様らの処刑なのだぁッ! 貴様らは殺されるために、 浮遊大陸まで来たのだよぉッ! ハハハハハハハハハハハハハァ―――――――――――!!』 これから、ハルケギニア史上最悪の降臨祭が始まる……! 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9354.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百十二話「あなたは……だれ?(前編)」 集団宇宙人フック星人 登場 艱難辛苦を乗り越えて、タバサ親子を救出することに成功した才人たち。しかしガリア王国を 抜けないことには、安心することは出来ない。そういうことなので、才人たち一行はひとまず キュルケの実家のフォン・ツェルプストーの城を目指し、ガリアとゲルマニアの国境へと馬車の 進路を向けていた。 その道中、荷台の中の才人とルイズは水のルビーを通して、ミラーナイトと話をしていた。 『そうですか、無事にタバサさんを救い出せて何よりです。サイトもルイズも、よく頑張りましたね』 「でも、まだガリアを脱出するまでは安心できないわ。わたしたちがタバサを奪還したことで 検問も張られてるでしょうし、それを無事に突破できればいいんだけど……」 「ガリア政府も、また新しい怪獣を差し向けてくるかもしれねぇ。用心しとかないとな……」 不安が残るルイズたちに、ミラーナイトは告げる。 『いざという時は、私たちも助力します……と言いたいところですが、ガリア政府は想像以上に 厄介な相手のようです。すみませんが、私たちの助けはあまり期待しないでいて下さい』 「どういうこと?」 ルイズが聞き返すと、ミラーナイトはゼロがゴーデス怪獣と戦っていた時に、彼らウルティメイト フォースゼロに降りかかっていた事態を打ち明けた。 『ルイズが誘拐されかかった時とタバサさんの救出作戦の時の両方、私とジャンボットと グレンファイヤー、三人とも同時に出現した怪獣の退治をしてたんです』 『それでお前たちの救援がなかったのか』 つぶやくゼロ。 『ええ。四つの場所で怪獣が同時出現するという事態が二度も起こるなんて偶然は考えられません。 これはガリア政府の策略と見ていいでしょう』 『俺たちを分断するためにか……。確かに、ガリアは俺たちが考えてたよりもやばいかもしれないな』 『はい。……今もなお、どうしてガリアが怪獣を操れるのかが不明ですし、今度はどんな手を 打ってくるものか、予測がつきません。故に、どんな小さな異常の兆候も見逃さないように くれぐれも気をつけて下さい』 ミラーナイトの警告を受けて、才人は大きく顔をしかめた。 「死ぬような思いしてヤプールをやっつけたのに、まさかそれに劣らないような敵が現れるなんてな。 さすがにそういうのは嫌になるぜ……」 ぼやきながら、ふとタバサの方に目を向けた。タバサは母親に寄り添いながら、安らかに 寝息を立てていた。 「よく眠ってるな、タバサの奴」 「一度怪獣の体内に呑み込まれたものね。その時にかなりの負荷が掛かったんじゃないかしら」 あれからまだ一度も目を覚まさないことにはいささか心配されるが、タバサの寝顔には 大きな安堵の色があった。自分たちが助かったことを、無意識に理解しているのだろうか。 とりあえず、タバサ自身は大丈夫そうだと才人は感じた。 「パムー」 そして眠るタバサ親子の上に、黄色い小動物が乗っかっている。この生き物についてルイズが 才人に尋ねた。 「ところで、あの生き物は何なのかしら。アーハンブラ城跡で急にどこからか出てきたかと思えば、 ずーっとタバサにくっついて離れようとしないし。サイト、あれのこと知らない?」 「いや……端末に情報はないな」 『俺はダイナから、あんな生き物の話を聞いた覚えがあるぜ。確か、ハネジローって名前だったかな』 「ハネジロー? 変わった名前ね……」 ルイズたちのひそひそ話を子守唄代わりにしながら、タバサは深い眠りに就いている。 そしてタバサは夢を見る。過去の記憶、自分が経験した冒険の一部の夢を……。 ヤプールとの決着がついた、アルビオン戦役の以前のこと――。 「キャア―――ッ!」 「キャア―――ッ!」 「キャア―――ッ!」 深夜のトリステインの村の外れで、ウルトラマンゼロが三人の宇宙人に囲まれていた。 目が退化したコウモリのような首の宇宙人、その名はフック星人。宇宙人連合の構成員であり、 一つの村を丸ごと利用した侵略計画を進めていた。その内容とは、夜な夜な村の住人を全員偽の村に 移し、本物の村にはハルケギニアを攻撃する秘密基地を建造するという大胆不敵なものであった。 しかしこの村出身の商人が、夜間に村に帰ってきたことをきっかけに計画は露呈することとなった。 昼に村にいなかった商人のことを、村人に化けたフック星人は誰も知らず、その異常の話がゼロの元まで 届いたのだ。父セブンからフック星人の話を聞いていたゼロはすぐに事件の真相に行き当たり、フック星人の 侵略計画を叩き潰すために夜の村に乗り込んだ。そしてフック星人は最後のあがきとして、巨大化して ゼロとの交戦を開始したのだった。 「キャア―――ッ!」 「フッ!」 フック星人の集団は一斉にゼロに飛びかかる。だがゼロは宇宙空手の達人、一人一人に 的確に打撃を入れて瞬く間に返り討ちにした。 「キャア―――ッ!」 しかしフック星人も後がないため、そう簡単には倒れない。身軽な動きでゼロの周囲を跳び回り、 翻弄しようとする。 『そんなことしたって無駄だぜ! お前らの弱点は知ってるんだ!』 だがゼロは慌てず、フック星人を一網打尽にするための攻撃を放った。 「シェアッ!」 「キャア―――ッ!!」 全身をスパークさせて、まばゆい閃光を発する! これを浴びたフック星人は頭を抱えて苦しみ、 バタバタと地面に倒れ込んだ。 夜行性のフック星人は、強烈な光にひどく弱いのだった。 『フィニッシュだぁッ!』 両腕をL字に組んだゼロは、スリーワイドゼロショットを発射。それが全フック星人に命中し、 フック星人は消滅したのだった。 かくしてフック星人は全滅した。朝になれば村にもトリステイン軍の手が入り、村は元の平和を 取り戻すことだろう。 「……キャア―――ッ……!」 だがしかし……! 実は一人だけ、フック星人が生き残っていたのだ! 森の中に身を 潜めていたフック星人は、いずれゼロとハルケギニア人たちに復讐することを誓いながら、 夜の闇の中に消えていった……。 それから時間が経ち、死んだと思われた才人がトリステインに帰還した後のこと――。 ガリア南部の山地の中にあるアンブランという小さな村の入り口前で、グレンとタバサ、 シルフィード一行は鉢合わせた。 「おう、お前ら! 久しぶりじゃねぇか!」 「あッ、グレン」 人間に姿を変えたシルフィードがグレンに手を挙げ返してから、首を傾げて尋ねかけた。 「わざわざこんな辺鄙なところに、何の用なのね?」 アンブランは三方を山に囲まれた、陸の孤島のような場所だ。一番近い街からでも、徒歩で 三日も離れている。何の用事もなしに来る場所ではない。 そのことについて、グレンはこう答えた。 「風の噂でな、この村がコボルドってのに狙われてるって聞いたもんだから、やっつけに 来たって訳よ。お前らも同じなんじゃねぇのか?」 「さすが鋭いのね。その通りなのね」 タバサたちも、コボルド退治の任務でこの地にやってきたのだ。トリステインの戦争も 終わったことだし、これともう一つ、引きこもりの貴族の子をどうにかする任務を済ませたら 魔法学院に戻るつもりでいる。 「でも頼まれてもいないのにこんな山の中にまで、よく来るのね」 「場所は関係ねぇよ。困ってる人がいるのならどこにだって駆けつける、それが俺たちだぜ! 何より、コボルドどもはこの村の人たちのほぼ全員に、無条件降伏しろなんて無茶な脅迫を してんだろ? ますますほっとけねぇぜ!」 義勇に燃えるグレン。彼の言う通り、アンブラン村を狙うコボルドは事前に、村に降参して 自分たちの身柄を差し出せという無茶苦茶な要求を突きつけたのだった。それが呑めなかった場合は、 コボルドは村を力ずくで壊滅させるつもりなのだ。 タバサはこの脅迫を、いささか奇妙に感じていた。コボルドは知能が発達した亜人ではないので、 普通は脅迫なんて高度なことは出来ない。可能なのは、稀に生まれてくる先住魔法を操るほどの知能を 持ったコボルド・シャーマンだが……何故わざわざ戦力を明かすような真似をするのだろうか。自分たちが 倒されない絶対の自信でもあるのだろうか? 「ところでグレン、前会った時より何だか元気そうね」 「ああ。実はサイトの無事が分かったんだぜ! そこからも色々あってさ。まぁその辺は 追々話そうじゃねぇか……」 グレンとシルフィードが和気藹々と会話しながら、三人は入り口の門をくぐってアンブラン村に 足を踏み入れていった。 アンブラン村は街から離れた小さな村であるが、意外と栄えていた。村人たちは、別の土地から 来た人間が珍しいのか、タバサたち三人を人なつっこい顔で見つめている。 「何だか随分とのんびりしたところなのね」 シルフィードも彼らの朗らかな雰囲気に当てられたのか、気軽な感じでつぶやいた。 が、グレンはいやに神妙な顔になっている。 「……」 「あれグレン、そんな顔してどうしたのね? まだコボルド退治は始まってないのね」 シルフィードが気づいて問いかけると、グレンはぼそりとつぶやいた。 「……何か、のんびりとしすぎじゃねぇか? 村全体が脅迫されてるってのによ、不安の色が見えねぇぜ」 「あッ。まぁ、言われてみたらそうだけど……そういう土地柄なんじゃないのかしら。そこまで 気にするようなことでもないと思うのね」 「そうかねぇ……」 不思議そうに首を傾げるグレン。 「なーんか、変な引っ掛かりみたいなもんも感じるんだけどよ……。気のせいかね」 タバサは内心、グレンの言葉に同意した。彼女もまた、この村には妙な違和感を覚えていた。 村人たちに、特段おかしいところがある訳ではないのだが……。 ともかく村で一番立派な屋敷へと向かって進んでいると、その方向から時代がかった甲冑に 身を包み、槍を持った老人が忙しなく走ってきた。 「怪しい者ども! 名を名乗れ!」 老人に槍を向けられるタバサたち。すると村人の男が呆れた声で老人をたしなめた。 「ユルバンさん、このお嬢さまは貴族ですよ。恐らく、お城からいらした騎士さまでしょう」 ユルバンと呼ばれた老戦士はタバサを見つめる。 「ふむ……よくよく見ればマントをつけておられるな。だが、貴族さまといえど、わしの許可 なくしてこのアンブランに立ち入ることは許されぬ!」 「そう言うあんたは何者なんだ?」 グレンが問い返すと、ユルバンは名乗りを上げた。 「わしはユルバンと申すもの。恐れ多くも領主のロドバルド男爵夫人よりこの槍を与えられ、 このアンブラン村の門番件警士として治安を預かっておる。わしの言葉は男爵夫人の言葉と 心得られよ。さて、神妙に名乗られ、当村にやってきた理由を述べていただきたい」 シルフィードがコボルド退治で派遣されてきた件を話すと、ユルバンは何故かたちまち顔を歪ませた。 「うぬぬぬぬぬぬぬ! あれほどわし一人で十分だと申し上げたのに……ロドバルドさまは、 まだこのわしが信用ならぬとおっしゃるのか! ええい!」 ユルバンはひょこひょこと来た道を引き返していった。グレンは周りの村人に質問する。 「あの爺さん、やたら偉そうだが一体何なんだ?」 「あのユルバン爺さんは、この村を守っている兵隊なんだが……未だに自分が優秀な戦士だと 思ってるんだよ」 「昔は相当な使い手だったらしいが、今はあの通りさ」 「一人でコボルド退治に行くって息巻いていたんだが、年寄りの冷や水もいいところだ。 いやあんた方が来てくれて助かったよ。あと三日もすればあの爺さん、痺れを切らして 飛び出していっただろうさ」 笑う村人たちだが、その言葉に貶す響きはなかった。村人からは愛されているのだろう。 タバサたちはそのまま、ユルバンの背中を追いかけて屋敷に近づいていった。 屋敷の主人は、銀髪の老婦人であった。彼女がユルバンの言った、ロドバルド男爵夫人であるらしい。 ロドバルドはタバサたちに、コボルド討伐依頼の説明をした。コボルドの群れは村から 徒歩で一時間ほど離れた廃坑に住み着き、まだ村は襲われていないが、夜な夜な数匹の偵察隊が 様子を探りに来るという。要求が受け入れられる気配がないと分かれば、すぐにでも村に攻め込んで きそうな雰囲気のようだ。 コボルドは夜行性なので、攻め入るなら日が出ている内だ。ロドバルドはタバサたちに、 村に泊まって夜が明けてから討伐をすることを勧めた。もちろんタバサは承諾した。 と、説明が済むとグレンがロドバルドに質問を投げかけた。 「ところで奥さん、コボルドは村の人たちの身柄を要求してるけどよ、それが何でなのかは分かんねぇか?」 村の人間をどうにかしてしまうつもりなら、脅迫などせずとも直接攻め入った方が効率的だろう。 そうしないということは、何らかの理由があるということになるが。 「……いえ、わたしには皆目見当がつきません。ただ、この村にはかつて『アンブランの星』という 大きな“土石”の結晶がありましたが、故あって使い果たしてしまいました。もしかしたら初めの 目的はそれで、今はないことを嗅ぎつけて腹いせにそのようなことを言い出したのかもしれません」 「そっか……」 今度は、ロドバルドがタバサたちに告げた。 「先ほどのユルバンのことでお願いがあるのですが……。恐らく『自分も連れていけ』と あなた方に言うと思います。その際、きっぱりと断っていただきたいのです」 タバサは、じっとロドバルドを見つめた。 「あの通り、ユルバンはかなりの年でございます。本人は未だ若い者には負けないと申して おりますが……亜人相手の実戦には耐えられないでしょう。彼は何十年も、わたしたちのために 尽くしてくれました。今や、夫も子もいないわたしには、家族のようなものなのです」 「……」 ロドバルドの、ユルバンに対する慈愛で満ちた言葉を受けて、グレンは何やら思案に耽って腕を組んだ。 その後、果たしてロドバルドの言葉通りに、ユルバンはタバサたちに討伐に連れていって くれるように、必死に頼み込んできた。 ユルバンのその熱意は、かつての失態を取り返すためだと本人が語った。二十年前、今回のように コボルドの群れがアンブラン村を襲い、立ち向かったユルバンだったが敵の棍棒の一撃でたちまち 昏倒してしまった。気がついた時には、コボルドの群れはロドバルドが退けていたが、彼女はその代償で 魔法を使えなくなってしまった。ユルバンはそのことを悔い、今回で名誉挽回をするつもりなのだった。 タバサはそれよりも、ロドバルドが魔法を使えなくなったということを気に掛けた。たとえ どんな重傷を受けようとも、普通は魔法が使えなくなるほどの後遺症は出ない。もっともユルバンが 嘘を吐くとも思えないので、何か他に魔法を使えない理由があるのかもしれないが。 「後生です。わしを連れていって下され。なに、足手まといにはなりませぬ! こう見えても、 鍛錬を怠ったことはありませぬ! 騎士さま方に迷惑は決してかけませぬ故! なにとぞ!」 懸命に頭を下げるユルバンに対して、タバサに代わってグレンが言い放った。 「じゃあ、足手まといにならないっていう証拠を見せてもらおうじゃねぇか」 「と、言うと?」 「ちょいと表出な。力試ししようぜ」 屋敷の中庭で、タバサとシルフィードが見守る中、グレンとユルバンは対峙していた。 グレンがルールを説明する。 「いいか、あんたが俺にその槍で一撃でも入れることが出来たんなら討伐に連れてってやるよ。 ただし、槍を落としたらあんたの負けだ、きっぱりとあきらめな。自分の得物を落とすことは すなわち戦士として負けだってことは、あんたほどの奴なら分かるだろ?」 「無論! わしの腕が真に若い者にも負けんということを、この勝負で証明してみせよう! すまぬが、素手相手といえど、わしの名誉のために加減はせんぞ」 「なに、全然構わねぇさ。本気のあんたじゃなきゃ、この勝負意味がねぇや」 グレンがぐっと拳を握って構えると、ユルバンは槍を構えてまっすぐに突進してきた。 「たああああああッ!」 しかしグレンは少しもひるまず、槍を手で掴んであっさりと止めた。 「何ッ!?」 そのままグイッと槍を引っ張り、ユルバンを自分の方へ引き寄せる。 「ぬおおおおッ!」 ユルバンを強引に間合いに入れると、すかさずチョップを仕掛けてユルバンの槍を握る手を強打した。 「ぐあぁッ!」 ユルバンは衝撃に耐えられず、たちまち手を放してしまった。ユルバンが真っ青になる内に、 グレンは槍をひったくって投げ捨てた。 あっという間の決着であった。 「あ、ああ……」 「……こいつで分かったろ。あんたを連れてけねぇ理由」 がっくり、とその場で膝を突くユルバン。グレンはうながれる彼に言い聞かせる。 「これがあんたの現実だ。そりゃあ確かに、その歳になっても鍛えてはいるんだろうさ。 だが老いってのは、現実ってのは残酷なもんだよ。どんなに頑張っても、肉体の衰えってのは どうにも止められねぇもんだ。あんたの身体も、こうして俺に簡単に負けるぐらいに衰えてたんだよ」 「……無念……。やはりわしは、あの時と同じ役立たずであったか……」 「俺が言うのも何だが、んな落ち込むなよ。男爵夫人はあんたに期待してねぇとか、そんなんじゃねぇ、 純粋にあんたに生きててほしいって思ってるから、あんたに討伐を許さないんだぜ。男爵夫人にとって、 あんたはそれだけ大きな存在だってことだよ。そこはあんた自身も誇るべきだ」 グレンは優しい声で説いた。 「戦いってのはよ、何も敵を倒すことや名誉を回復することだけじゃねぇんだぜ。大事な人を 悲しませないようにするために、自分の命を守り抜くこと。これだって立派な戦いなんだ。 コボルドは俺たちが責任もって退治するから、あんたは自分の命を守って、男爵夫人を 悲しませないようにする戦いに励みな。男爵夫人の笑顔守れんのは、俺たちじゃねぇ、 あんたにしか出来ねぇことなんだからな」 グレンの説得を、ユルバンがどこまで納得したのかは知らないが、彼は名誉を懸けた勝負で 負けたのだ。ベテラン戦士として、勝負の上での約束を破ることはしないだろう。 グレンがユルバンを残してその場を後にしようとすると、彼をロドバルドが待っていた。 「戦士さん、ありがとうございます。ユルバンを止めてくれて」 「いや、礼なんかいいぜ。そもそも、俺が勝手なことをした訳なんだしさ」 「それでも言わせて下さい。恐らくあなたが考えてる以上に、ユルバンの存在はわたしたちに とって大切なものなのです。彼の命が守られることの他に、嬉しいことはありません」 随分と大仰なことを語るロドバルドの背中を、タバサがじぃっと見つめていた……。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1453.html
ルイズは自身の使い魔である、リョウタロウ・ノガミを気に入っていた。 それがどの様な感情から来ているものか、現在の彼女自身には判別が付かないが 相当に入れ込んでいるといってもよかった。 彼を召喚した当初はその見た目に違わぬ貧弱さと、何より平民であったことに大いに落胆したのは事実だ。 しかしそんなことは、彼に自分が『ゼロ』だと知られたその時に、吹き飛んでしまった。 『笑わないよ。……ほら、ルイズちゃんの教科書、擦り切れてぼろぼろになってる。 弱かったり、運が悪かったり、何も知らなかったとしても、何もしないことの言い訳にはならない。 僕は知ってるから。ルイズちゃんが、すごく頑張ってるってこと』 その言葉を聴いて、涙が一筋落ちると同時に、何か重い憑き物もいっしょに落ちたかのような気がした。 例え魔法が使えなかったとしても、父にも、母にも、姉達にも愛されてきたという自覚がルイズにはあった。 しかしただ一つ、愛する家族にさえ貰えず、彼女を苦しめ続けてきたものがあった。 魔法が貴族としての絶対の要素であるこの国で、彼女の生涯の中、一度も得られなかったものがあった。 それをこの使い魔の青年が、初めて自分に与えてくれたのだ。 それは、誰かに認められるということ。 その後赤くなった目元を隠し、何事もなかったかのように教室を掃除し、何事もなかったかのようにリョウタロウが 木片につまづき頭を打ち気絶し、何事もなかったかのようにとても運の悪い、優しい使い魔を見て溜息をついた。 その日から、ルイズはリョウタロウを使い魔としてよかったと思うようになった。 だから、彼がまたいつも通り異常な運の悪さを発揮してギーシュと決闘になった時、散々に打ちのめされたリョウタロウを見て 一瞬で頭に血がのぼり、『錬金』を連発して助けだし治療と看病に努めた。 彼のひ弱さを心配して、タバサという子の監修の元、ハシバミ草のジュースを飲ませたりもした。 リョウタロウが自分で一生懸命選んだ、デルフリンガーという名らしいボロ剣に、 キュルケが『ファイアボール』をぶち当てた時には、決闘の当事者である自分を棚に上げ、激怒もした。 こんな、怒ったり、笑ったり、忙しない毎日がこれからも続くと思っていた。 少なくともリョウタロウが故郷に帰るまでか、自身との使い魔の契約が切れるまでは。 そう、使い魔の契約が切れるということは主従どちらかが命を落とすということであり それは例えば今目の前で起きている現状の通りの出来事が仮にだが起きてしまった場合にそうなるわけで―――――― 「……あ、え?嘘、でしょう?」 ――――――ばらばらと降り注ぐ砂と小石が頬に当たり、つかの間の現実逃避から引き戻された。 土煙が舞い上がり、視界が一瞬塞がれる。 「りょ……たろ?」 視界が晴れたその先には巨大な土の塊が立ちふさがっている。 土で出来た巨大なゴーレムが、地面に拳を打ち下ろしていた。 「ば……ばかね……またいつもの、ツイてない病、なんでしょう? ほら、怒らないから、ね?でて、きなさい、よ……?」 より正確に言えば、ゴーレムから守るためにルイズを突き飛ばした、リョウタロウの真上に―――――― 「ねえ!?ねえったら!?リョウタロ――――――!?」 「だーー!!危機一髪だったなあ!相棒!!」 唐突に場に似合わぬ陽気な声が響き、人影がむくりと起き上がった。 その影の正体を認めたルイズの目が見開かれる。 リョウタロウだ。生きていたのだ。 「リョウタロウ!リョウタロウ!!」 「あー、危ねぇから後ろ下がってな娘っ子。にしても、うは!おでれーた!!相棒の身体乗っ取ってるよ俺!? しかし……操りやすいっつーかなんつーか、燃費が良いのか?」 喜び駆け寄ってくるルイズを静止し、リョウタロウは何やら独り言を始める。 どうにも腑に落ちないものはあったが、何とかリョウタロウの無事を確認し、ルイズはほっと胸を撫で下ろした。 しかし直ぐに、彼に感じる違和感に首を傾げた。 その身体にはゴーレムによるダメージは見当たらず、むしろ活力が漲っているのを感じる。 以前までの弱々しい雰囲気はどこかに消え、飄々としていながらも触れれば斬れる剣のような鋭さを醸しだしていた。 髪の一房と、瞳の色が鈍色に妖しく輝いている。 一体リョウタロウの身に何が起きたのだろうか。 「ねえ、あんた本当に大丈夫―――危ない!!」 「んー、相棒が特異体質なのか?……あん?何か言ったか娘っ子?ってうおおおお!?」 ルイズの警告を受け、慌てて屈んだリョウタロウの頭上を ゴーレムの豪腕が唸りを上げて通り過ぎていく。 「っかーー!ヤル気満々じゃねぇか、危ねぇなあオイ!!始めっからクライマックスってか!? ええい、相棒は寝ちまってるし……しゃーねぇ!俺がやるしかねえか――――――!!」 余りにも頼りない、ボロボロに錆びた剣を突きつけ しかし誇らしげにリョウタロウが叫ぶ。 「俺、参上ッッ!!」 ゼロの使い魔 ~オデレタロス参上!!~ 完
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9047.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第十四話「ひきょうもの!シエスタは泣いた(前編)」 冷凍怪人ブラック星人 登場 トリステイン王女アンリエッタから、帝政ゲルマニアとの同盟に破局をもたらす手紙を アルビオンのウェールズ皇太子より回収する任務を受けて旅立ったルイズと才人たち。 しかし護衛につけられたグリフォン隊隊長ワルドは、『レコン・キスタ』の回し者だった。 ウェールズの命を狙うワルドは才人が一度は阻止したのだったが、宇宙人連合の横槍により、 結局ウェールズの命はワルドに奪われてしまった。そのため、任務は達成したが、 ルイズと才人の心には重い雲がのしかかった……。 「……よっと。これでいいか?」 『ああ、ありがとな。これでミラーナイトといつでも話が出来る』 旅を終えて魔法学院に帰ってきたルイズと才人が最初にしたことは、ゼロの頼みで姿見を 部屋に置くことだった。鏡ならルイズの部屋にももちろんあったが、全身が見えるものの方がいいと ゼロが言うので、新しく購入したのだ。そして今、それを部屋の壁際に設置した。 『ルイズもありがとうな。わざわざ新しく買ってくれて』 「別に礼を言われるほどのことじゃないわ。これくらい……」 ゼロの呼びかけに対するルイズの返事は、どこか暗かった。それを聞きとがめた才人が、 ルイズに尋ねかける。 「ルイズ、まだ皇太子のことを気にしてるのか? まぁ、俺も何とも思ってない訳じゃないけど……」 「……それもあるけど、それ以上に姫殿下のことが気に掛かってるのよ。姫殿下……あんなに 胸が張り裂けそうな顔をなさって……」 ルイズは、アルビオンから帰還してすぐに王宮に向かい、顛末の報告をした際のアンリエッタの顔を 思い出していた。 彼女は最愛のウェールズの死を聞かされて、静かに嘆き悲しんだ。だがそれ以上に、ワルドが 裏切り者だった事実にショックを受けていた。よりによって内通者を使者に選んだことで、 自分がウェールズを殺したようなものだと自らを責めていた。 軍の立て直しが急がれるこの大事な時に、魔法衛士隊の一角の隊長が離反したという事実は、 余計にトリステインの負担になり、アンリエッタの負担につながる。愛する人の死でただでさえ 精神が傷ついている彼女が押し潰されやしないかとルイズは気を病んだが、そんな彼女に アンリエッタは、努めて笑顔を作って言った。 『大丈夫ですよ、ルイズ。あの人は、最期まで勇敢に戦い、死んでいったと言いましたね。 ならばわたくしは……勇敢に戦って生きていこうと思います』 アンリエッタはそう宣言したものの、それでもルイズの心の暗雲は晴れなかった。あの時ウェールズを 最後まで守り抜けていれば……そう考えてしまう。それは才人も同じだった。 二人がいつまでも暗い顔をしていると、それを察したゼロが急に語る。 『ウルトラマンは神じゃない。救えない命もあれば、届かない思いもある』 「え?」 『前に親父たちが言ってたことさ。ウルトラマンは色んな超能力を持ってるが、それでも 何もかもが出来る訳じゃない。時にはどうしようも出来ないことに直面することもあるってな』 父親たちからの言葉を語るゼロは、けど、とつけ加える。 『だからって諦めちゃいけねぇんだ。立ち止まってちゃ、救える命も救えねぇ。たとえその時は救えなくとも、 前に進み続ければ、別の命を救えられるようになるかもしれない。大切なのは、最後まで諦めずに立ち向かうこと。 心の強さが、不可能を可能にするんだってな』 「……いいことを教えてくれるお父さんね」 ゼロの言葉で、ルイズも才人も少しばかり気持ちが軽くなっていた。そうだ、いつまでも ウジウジしていたってしょうがないじゃないか。今は何も出来なくとも、いつか自分たちに 出来ることがやってくるかもしれない。その時のために、今よりも成長することに 力を注ぐ方が大事なのだ。もう悲劇を繰り返さないために……。 『それより今は、ミラーナイトと話をしようぜ。あいつきっと、超空間で離ればなれになってからのことを 知りたがってるだろうしな』 ルイズたちが決心を固めていると、ゼロがそう言って、姿見に向かって呼びかけた。 『おーい、ミラーナイト! 聞こえてるかー!』 『はい。ちゃんと聞こえてますよ』 姿見の鏡面が揺らぐと、その中に等身大のミラーナイトの姿が映し出された。鏡の中に ミラーナイトがいる構図に、ルイズは驚いて小さく声を上げた。 『驚かせてしまいましたか? 改めて、自己紹介させてもらいます。私は鏡の騎士、ミラーナイト。 お二人にはゼロがお世話になっているようで、お礼を申し上げます』 ミラーナイトはルイズと才人に対して深々と一礼した。しかし腰を折っても、身体が鏡面から はみ出すことはない。完全に鏡の中に収まっている。 「これって幻術じゃなくて、本当にこの鏡の中にいるのよね……。鏡の中に入れるっていう ゼロの話は本当なのね……」 『私のことは既にゼロから聞かれてるようですね。ではゼロ、あなたから私に、この星のことを 教えてもらえませんか? 何分やっと到着したばかりで、右も左も分からなくて……』 『おういいぜ! まずは、このハルケギニアっていうところだが……』 ゼロはハルケギニアという星の特色や文化、文明、メイジのことや、この宇宙に到達してから 今日までのことをまとめてミラーナイトに伝えた。 『なるほど、分かりました。この星は、広い宇宙の中でも独特なようですね』 『あぁそうだな。それでここにいるのが、俺と同化してる平賀才人と、それを召喚したルイズ。 そっちの壁に立て掛けてる剣はデルフリンガーって言うんだ』 「あッ、どうも。ご紹介に預かりました、平賀才人です」 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ。みんなルイズって呼んでるわ」 「この俺がデルフリンガーさまだぜ! 全くもう一人の相棒のお仲間は、相棒に負けず劣らず仰天人間だな!」 才人たちが名乗ると、ミラーナイトはもう一度礼をした。口調から受けるイメージ通り、 相当礼儀を重んじるタイプのようだ。 『これから長いおつき合いになることかと思いますが、どうぞよろしくお願い致します。 それでゼロ、あなたには私が不在のせいで大分苦労をさせてしまったようですね。申し訳ありません』 ミラーナイトは今までゼロが一人で怪獣、宇宙人と戦っていたことと、ゼロが移動に難儀していたことを すまなく感じていた。 『いいんだよ。しょうがねぇことさ。それより、お前が無事にたどり着いてくれて嬉しいぜ。 危ないところを助けてもらったしな』 『そのことは、ルイズさんのお陰でもあります』 「え? わたし?」 いきなり名前を出されたルイズがキョトンとする。 「でもわたし、あの時何もしてないわよ?」 『いいえ。この星の到着したばかりで、ゼロがどこにいるかも分からなかった時、あなたの声が聞こえたんです。 だから私はあの場に駆けつけることが出来た』 ミラーナイトが説明されたルイズは、指に嵌まった『水のルビー』に目を落とした。一度は アンリエッタに返却しようとしたが、彼女からせめてもの報酬にとそのままもらうことになった。 代わりに、ウェールズの形見である『風のルビー』を渡したのだった。 『あなたのゼロを助けたいと思う気持ちが、私を呼び寄せたに違いありません。感謝致します』 「そ、そんなお礼を言われるほどのことじゃないわ! 頭を上げて!」 礼を述べられたルイズは、特別なことをしていないのにそこまで感謝されて、むしろ申し訳ない気持ちになった。 そうしていると、ゼロが話を切り替える。 『とにかく、これでウルティメイトフォースゼロが一人集結だ! これからはお前も、 ハルケギニアを守る任務についてくれるよな?』 『もちろんです。それに、鏡さえあれば、ゼロも私の能力で現場へと移動できるようにしますよ』 『おぉっし! これで大分楽になるぜ!』 今までの問題が解消するより、ミラーナイトに会えたことの方が嬉しそうなゼロに、 才人とルイズが思わず苦笑した。 『私の力が必要な時は、鏡面に向かって呼んで下さい。いつでも馳せ参じます』 話が済んで、ミラーナイトの姿が鏡の中から消えると、ルイズは才人に向き直り、その中のゼロに向けて言った。 「あの、ゼロ……昨日は、ごめんなさい」 『ん? 急にどうしたんだ』 「昨日はわたし、ひどいこと言っちゃったでしょう。わたしの方こそ、あなたの事情を無視して勝手なお願いして、 当たり散らして……今になって思えば、自分が恥ずかしいわ……」 ルイズは王軍への助力を頼んで、断られたことで怒鳴り散らしたことを冷静になった頭で思い返し、 反省していた。申し訳なさそうな彼女を、ゼロはあっけらかんと許す。 『いいってことさ。俺も同じ立場だったら、無理言ってると分かっててもキレてただろうからな。 むしろお前が辛いのに、何の力にもなってやれず、すまないと思ってる』 「そ、そんな……こっちが悪いのに、そう思われたらほんとに申し訳ないわ」 二人が謝り合う状態になったことで、才人も含めて笑いをこぼす。そしてその件は、自ずと 水に流すことになった。 その後、才人はルイズの部屋を出てある場所へ向かっていた。 『才人、もうじき日が沈むっていうのに、どこに行くんだ?』 「厨房だよ。シエスタにお礼を言いに行くんだ」 シエスタとは、才人が魔法学院に来てからよく世話になっているメイドのこと。才人がこちらの世界で 最初に仲良くなった相手でもある。しかしルイズは、何故か彼女のことをよく思わないらしい。 別に反りが合わないという訳でもないようなのに、不思議だと才人は考えている。 「俺たちが留守にしてる間に、ルイズの部屋の掃除をしててくれてたみたいだしな。それで マルトー親方に、今どこにいるか聞くんだよ」 『そういえば帰ってきてから、シエスタを見てないな。まだ俺たちが帰ってきたのにも気づいてないかもしれねぇな』 ゼロと話し合いながら、厨房に足を運ぶ才人。しかしそこで、料理長のマルトーからとんでもないことを聞かされた。 「ええッ!? シエスタが辞めた!?」 「ああ。我らの剣が不在の間にな……」 ギーシュを倒した才人を、平民の希望の星だと呼ぶマルトーは、はっきりと告げた。 「そ、それってどういうことですか!? シエスタが何かしたんでしょうか……! それか家庭の事情とか」 「いや、そういうことじゃないんだ。胸糞の悪い話なんだがな……」 マルトーは不快そうに顔を歪ませて、事情を話す。 「先日王宮の遣いのモット伯っていう貴族がやってきてな。学院長に用事を告げて、そのまま 帰ればよかったってのに、偶然鉢合わせたシエスタに目をつけると、自分のメイドにするって言って 引っこ抜いていっちまったんだ……」 「何だって!? そんな無茶苦茶な! シエスタの意思は!?」 「もちろんあいつも嫌がってたが、平民の気持ちなんて、貴族にはどうだっていいのさ。 そして平民は貴族に逆らえない。悔しいが、俺たちじゃどうしようも出来ないのさ……」 残念そうにマルトーが語っている間に、才人は歯を食いしばって顔を歪めていた。 「モット伯? ああ、僕も噂には聞いたことがあるよ」 シエスタを連れ去ったモット伯の情報を得るため、才人はギーシュを捕まえてモット伯のことを尋ねた。 「『波濤』の二つ名を持ち、王宮の勅使の役を任されるほどの貴族さ。ただ、相当な好色家で、 あちこちで若く美しい平民の娘を買い入れて、自分の屋敷に囲ってるそうだ。特に最近は 頻度がひどいって話を聞いてるね」 「そうか……ギーシュ、お前みたいな奴なんだな」 「一緒にしないでくれないか……? 僕は無理強いはしないよ。か弱き女の子は、優しく愛でるものさ」 相変わらず歯の浮くような台詞を臆面もなく言うギーシュである。 「それでまさか、そのシエスタというメイドを取り返そうというつもりかい? やめた方がいいよ。 評判は良くないといえ、モット伯は王宮に直々に仕えるほどの貴族。平民の君にどうこう出来るものじゃないんだ」 「出来る出来ないじゃないんだよ! シエスタのためなんだからな!」 「……まぁ、警告はしたからね」 熱く語る才人に閉口したギーシュは、ふと思い出してつけ加える。 「あッ、そういえば、モット伯がゲルマニアの貴族が家宝にしてる、この世に二つとない 珍しい書物も欲しがってるって話を聞いたことがあるな。もしかしたら、それがあれば話は別かも……」 「何だって!? その貴族ってのは一体誰だ!?」 「うわわ!? や、やめてくれたまえ君!」 興奮した才人がギーシュを揺さぶったので、ギーシュは目を白黒させる。 「ぼ、僕も詳しいところは知らないんだ。それによく考えれば、ゲルマニア貴族の家宝を 手に入れるなんて土台無理な話だよ。今のは忘れてくれ」 「くそッ……まぁとにかく、色々と教えてくれて助かった。最後に一つ、モット伯の屋敷の道順を教えてくれ」 ギーシュより屋敷までの道のりを聞き出すと、才人は彼から離れた。 「道筋は分かったけど、実際問題どうするか……見当がつかないな。ゼロ、何かいい方法はないか?」 『難しいな……。この星の住人が相手じゃ、ウルトラマンの超能力を使う訳にはいかない。 あくまでこの星のルールに則らないといけないんだが……』 「方法はないか……。けど、とにかく行動しないと始まらないよな!」 手段は思いつかなかったが、才人はモット伯の屋敷に向かうことに決めた。だがちょうどその瞬間に、 角の陰から呼び止められる。 「ちょっと待ちなさい。ご主人様を放ってどこに行くつもり?」 「うわッ、ルイズ!? どうしてここに?」 陰から顔を出したのは、他ならぬルイズだった。 「妙に戻るのが遅いから、捜しに来たのよ。全く手間を掛けさせて……。まぁそれより、 モット伯のところへ行くつもりなんでしょ?」 「ま、まさか今の話聞いてたのか?」 無言で肯定したルイズは、ハァとため息を吐く。 「向こう見ずにも程があるわね。ギーシュも言ってたけど、モット伯は貴族よ? 今回ばかりは 力押しじゃどうにも出来ないでしょうし、平民のあんたじゃお目通り出来るかどうかも定かじゃないわ」 「けど、シエスタが! このまま黙ってることなんて!」 「ちょっと落ち着きなさい」 焦る才人を制して、ルイズが告げる。 「しょうがないから、わたしが一緒に行ってあげるわ。公爵家のわたしが相手なら無視は出来ないはずよ。 そしたら、交渉の余地もあるわよ」 「えッ、ほんとか!? 本当に協力してくれるのか!?」 申し出に大喜びする才人だが、直後に不思議がる。 「でも意外だな。お前ってシエスタのこと好きじゃなさそうなのに、力を貸してくれるなんて」 「確かに、あの子のことはあんまり気に入らないけど……不必要にサイトにベタベタするし……」 途中のひと言は、聞こえないように小声で話すルイズだった。 「でも、だからって放っておくのは目覚めが悪いわ。それにあんたはアルビオンへの旅で いっぱい頑張ったし、そのご褒美代わりよ」 「そうか! とにかく、ありがとうなルイズ!」 「お礼を言うのは早いわよ。メイドを取り返してからにしなさい」 非常に嬉しそうな顔を見せる才人を一瞥したルイズが、次のように思う。 (そうよ。サイトとゼロには何度も助けてもらってるんだから、せめてこういうところじゃ 力になってあげないと……) 才人とゼロにどんな力があろうと、貴族社会の中では無力に等しい。だから二人の代わりに力になろう。 今の自分では、そういうことでしか役に立てない……と、とにかく才人とゼロの役に立つことを望むルイズは考えた。 それからモット伯の屋敷へ急行したルイズと才人は、門番に話をつけて、屋敷の中に立ち入ることに成功した。 「うわッさぶッ! 何だってこんなに寒いんだ? 夏でもないのに、冷房効きすぎじゃないのか?」 門をくぐってエントランスホールに踏み込んだ才人は開口一番に、身体を震わせつつ言い放った。 屋敷の中は、明らかに外よりも冷え込んでいるのだ。 「レイボウが何かは知らないけど……確かに変ね。水系統の魔法でも暴発させたのかしら?」 ルイズも身震いしながら疑問に感じていると、二人の面前に問題のモット伯が、執事風の格好の老人と うら若き乙女を従えながら屋敷の奥よりやってきた。 ルイズと才人は、その内の乙女、もっと言えば彼女の格好に目を引きつけられた。ハルケギニアでは 見たことのない純白の衣装を纏っており、ルイズはどこの民族衣装だろうと考えた。 だが才人はその衣装の正体を知っていた。日本の伝統的な着物そのものなのだ。だが、 当然この世界に日本は存在しない。ならあの着物はどういうことか? その疑問を考える間もなく、 モット伯が口を開く。 「そなたがヴァリエール家の三女か。こんな夜更けに、どのような御用で」 非常に抑揚のない、冷たさすら感じられる口調だった。この屋敷の中の気温より冷たいかもしれない。 (変ね……学院で遠巻きに見ただけだけど、こんな人だったかしら。顔色もやけに悪いし…… もっとも、それはここの衛兵たちも同じだけど) モット伯や周りにいる衛兵たちの様子を観察していぶかしむルイズ。そろいもそろって 青白い顔を並べており、比較的血色がいいのは老人と女性だけというありさまだった。 しかし今はそんなことを考えていても仕方ない。気を取り直して口を開く。 「突然のご訪問をお許し下さい。実は、伯爵に折り入ってお願いがございます」 「それは一体何か」 「伯爵が学院よりお連れになった、シエスタという名のメイドをお帰しいただきたいのです。 彼女はわたしの使い魔がよく世話になっている娘ですので、急にいなくなられると困ると 使い魔が申しております。代わりに伯爵のご要望を、ヴァリエールの名の下に何でもお叶え致します。 どうぞ、お願い出来ませんでしょうか」 へりくだった態度で頼み込むルイズ。しかし、 「断る。今の私が求めるのは若い娘のみ。それ以外には何も求めぬ。帰るがよい」 「なッ……!?」 交渉する余地もなくはねつけられたことで、ルイズも才人も絶句した。上手く行かないかもしれないとは思ったが、 ここまで頑なな態度を取られるとは思わなかった。 「ち、ちょっと! 少しは考えてくれてもいいじゃないですか!」 必死に食い下がる才人だが、彼が口を開くと、モット伯は汚らしいものでも見るような目つきを向けた。 「黙れ。平民風情が、貴族の私に盾突こうというのか。衛兵、その男を叩き出せ」 「うッ!?」 モット伯の命令で、あっという間に衛兵が才人を掴んで、槍を向けた。想像以上の暴挙に ルイズが慌てていると、モット伯の前に黒髪でそばかすが目立つが整った顔立ちの 若いメイドの少女が飛び出てきた。彼女こそ、問題の中心のシエスタだ。 「お待ち下さい! 伯爵、この者をお許し下さい! 私が代わりに罰をお受けしますので、どうか!」 隠れて話を聞いていたシエスタは、すぐに才人への許しを乞うた。だがモット伯は態度を緩めない。 「邪魔だ。たかだかメイドが、お前も私に逆らうというのか!」 「あうッ!」 あろうことか、モット伯はシエスタを足蹴にした。これにはルイズも怒りを爆発させた。 「伯爵! いくら平民でも、何の罪もない娘に何て振る舞いを! すぐに謝りなさい!」 声を荒げて怒鳴ると、ルイズにも槍の穂先が突きつけられた。 「ちょッ!? ど、どういうつもり!? わたしに手を上げるなら、ヴァリエール家が黙ってないわよ! それでもいいの!?」 普段は出さない家の名前で脅しを掛けることまでするが、そうしたらモット伯に代わって老人がルイズを嘲った。 「黙れ黙れ、所詮は小娘が! 伯爵は今や、そんなものなど全く怖くないほどの力を得られたのだ! 痛い目を見たくないのだったら、このまま黙って帰るがいい!」 「何ですって……!?」 ルイズはたかが使用人が自分に向かって無礼な物言いをしたことより、その内容に耳を疑った。 公爵家の権威が怖くない力とは、どういうことなのか。おかしい。入った時点で思っていたが、 この屋敷はおかしいことだらけだ。 「ちょーっと、お待ちなさいな!」 危機的状況にルイズと才人が冷や汗を垂らしていると、急にこの場には似つかわしくないほど 明るい声が響き渡り、同時に門が外から勢いよく開かれた。そうして立ち入ってきた人物の顔を見て、 ルイズが唖然とする。 「キュルケ!? あんた、何でここに!?」 燃えるような赤い髪は見紛うはずもない、キュルケである。相変わらずタバサが同行しているのは、 シルフィードに乗せてもらったからだろう。ルイズの問いかけに、キュルケはしれっと答える。 「今日旅から帰ったばかりなのに、サイトがギーシュからモット伯爵の話を根掘り葉掘り 聞いてるところを目にしてね。これは何かあると思って、つけさせてもらってた訳」 「ちょっと! また野次馬根性出したってことね!?」 「まぁまぁ、今はそんなこといいじゃない。それよりモット伯爵」 ルイズを適当にあしらうと、キュルケはモット伯に向き直って、服の下から包みに覆われた何かを取り出す。 「聞けばあなた、我がツェルプストー家の家宝をご所望なんですって? ここにあるから、 それでお手打ちにして下さらないかしら?」 「え? 家宝って……まさかギーシュが言ってたゲルマニアの貴族って、キュルケのところだったのか!?」 かなり身近にいたことに、才人は思い切り面食らった。 「これは昔、あたしのおじいさまが、あるメイジが偶然何処かから召喚したものを買い取ったものなの。 あたしも中身を見たけど、ほんとにこの世に二つとないような珍しい本で、特に伯爵のようなお人が 欲しがりそうなものだったわ。だからこれに違いないと思って、嫁入り道具として渡されたこれを持ってきたって訳」 「い、いいの? 家宝をそんな簡単に交渉材料にしちゃって」 キュルケのことを毛嫌いしているルイズも、さすがに戸惑った。だがキュルケはあっさりとしている。 「字は読めなかったけど、載ってる挿絵だけならあたしには必要のない内容だったし、別に構わないわ」 「……断る。今の私に必要なものは、生身の娘だ。書物など、どうでもよい」 求めていたはずの書物を引き合いに出しても、モット伯は断固として譲らなかった。 しかしキュルケは下がらない。 「まぁそう焦らないで。中を見てからご判断なさっても、遅くないんじゃないかしら?」 と言いながら、包みを外して、中身を皆の目に披露した。その瞬間、才人が思わずつぶやく。 「えッ!? あれって、エロ本じゃ……」 書物の正体は、女性のあられもない姿が表紙になっている、ひと昔前のエロ本に間違いなかった。 予想外すぎる正体に才人が言葉をなくしていると、それに反応した者がもう一人いた。 「何!? それは地球の書籍か! 何故この星に?」 「……え?」 おかしなことを口走った老人に、ルイズや才人、キュルケらの視線が集中した。そうすると、 老人は途端にしまったという表情になる。 『才人、あいつもしかして……』 「ああ。俺も今そう思った」 ハルケギニア社会では耳にしない単語が飛び出たことで、ゼロも才人も老人の正体を勘ぐった。 そのため才人は、確信を得るために、こっそりウルトラゼロアイをガンモードで取り出して 老人に突きつける。 「おいあんた。これが見えるか?」 「ぬッ!? 貴様まさか! おのれッ!」 ウルトラゼロアイは、この星の住人では武器になるものとは想像できない形状なのにも関わらず、 老人は明らかに用途が分かっている反応を見せた。これで確定だ。 「お前人間じゃないな! 正体を見せろッ!」 「ぐわぁッ!」 トリガーを引いて光線を浴びせると、それにより老人の姿が揺らぎ、黒い身体に白い顔面、 ギョロリと剥いた大きな眼球に赤鼻が目立つ怪人の姿に早変わりしていた。 「そ、その姿は! もしかして!」 ルイズたちがこの変化に驚愕していると、正体を現した怪人は名乗りを上げた。 『バレてしまったならしょうがない! 私は宇宙人連合の一人、土星からやってきたブラック星人だ!』 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9441.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百五十二話「ハルケギニアの神話」 超古代怪獣ゴルザ 超古代竜メルバ 登場 才人が目を覚ますと、そこはだだっぴろい草原だった。 「はい?」 身体を起こした才人は、最初に自分の身に何が起こったのかを思い返した。 まず、アンリエッタからの要請でロマリアに向かった。そこで故郷、母親からのメールが届き、 それを読んで涙したのをルイズに知られてしまい、ルイズは自分を無理矢理にでも地球に帰そうと して……ゼロも自分から離れ、光を浴びせられて意識を失い……。 ハッと青ざめて己の左腕に目を落とす才人。ガンダールヴのルーンは手の甲に刻まれた ままだが、それと同等に大事な、いやある種それ以上に大切なウルティメイトブレスレットは、 やはりなくなっていた。それはつまり、ゼロが自分から分離したことを意味している。 となれば、自分は寝ている内に地球に送り帰されてしまったのだろうか。 しかし、それにしては様子がおかしい。地球に帰すのだったら、自分の住んでいる街に 置いていくのが普通だろう。だが周囲の光景は、見渡す限りの野原。遠景には湖や、山と森が 見える。少なくとも、自分の住んでいた地域にこんな土地はなかった。 ゼロが地球の適当な場所にほっぽっていった? いやそんな馬鹿な。まだハルケギニアに いるのだろうか。しかし、それならそれでここはどこだ? ロマリアか? 疑問が尽きないでいると、遠くから人影がこちらに近づいてくるのに気がついた。 咄嗟に背中に手をやったが、デルフリンガーはない。デートの時に外していて、そのまま なのだ。少し不安を覚えたが、人影の所作から、敵意はないことを見て取った。 近くまで来ると、草色のローブに身を纏っていることに気がついた。顔はフードに隠され よく見えないが、身体のラインから女性ではあるようだ。 女性は才人に声を掛けてきた。 「あら、起きた? 水を汲んできてあげたわ」 フードを外した女性の顔立ちは恐ろしいほどの美貌であり、才人は思わず息が詰まった。 それだけではなく、女性の耳は長く尖っていた。エルフだ、と才人は気がついた。 女性から渡された革袋の水でひと息吐くと、女性が自己紹介する。 「わたしはサーシャ。あなたは? こんなところで寝ているのを見ると、旅人みたいだけど。 それにしては、何にも荷物を持ってないけど……」 「サイトと言います。ヒラガサイト。旅をしてる訳じゃないです。起きたら、ここに寝かされて ました」 名乗り返した才人は、少し違和感を覚えた。エルフが、人間の自分に気さくに話しかけている。 才人が出会った純血のエルフの例は一人だけだが、エルフは人間と敵対しているはず。なのに 目の前のサーシャから、自分への敵意や忌避感といったものは全くなかった。まさかティファニアの ようなのが他にそうそういるとも思えない。 それに、他に誰もいないとはいえエルフが白昼堂々と草原を闊歩しているとは。もしかして、 ここはエルフの支配する土地なのだろうか? しかしエルフの土地“サハラ”は砂漠と聞いたのだが……。 「すいません。ここはハルケギニアのどこですか?」 とりあえず確かめてみようと質問すると……予想外すぎる返答が来た。 「ハルケギニア? 何それ?」 ハルケギニアを知らない! そんなことがあるのだろうか!? 一瞬混乱した才人だが、はっと気がついた。どれだけ時間が経っているかは分からないが、 気を失う直前までは、肝要の記念式典は一日前にまで差し迫っていた。早く戻らないと、 ロマリアにいるルイズたちが危ない! うわあああ! と思わず奇声を上げると、サーシャが呆気にとられて振り返った。 「どうしたの?」 「いや……思い出したんだけど、今、俺たち大変なんすよ……。ここでこんなことしてる 場合じゃない」 「どんな風に大変なの?」 「いやね? まぁ言っても分かんないでしょうけど、とてもとても悪い王さまがいてですね、 俺たちにひどいことをするんです。そいつをやっつけるための作戦発動中だったのに……。 肝心要の俺がこんなとこで油売っててどうすんですか、という」 「それはわたしも同じよ」 サーシャはやれやれと両手を広げた。 「今、わたしたちの部族は怪物の軍勢に飲み込まれそうなの。こんなところで遊んでいる 場合じゃないのよ。それなのに、あいつったら……」 「あいつ?」 問い返すと、サーシャはわなわなと震えた。何やら物騒な雰囲気なので才人は思わず口ごもった。 しばらくどちらも発言しない、何だか気まずい空気が流れたが、やがてサーシャの方が 沈黙を破った。 「何だかとても変な気分」 「変な気分?」 「ええ。実はね、わたしって結構人見知りするのよ。それなのにあなたには、あんまり そういう感じがしない」 へええ、と才人は思った。しかし言われていれば、自分もサーシャには恐怖に類する印象は 一切感じなかった。ティファニアを知っているとはいえ、真正のエルフにはかなり痛い目に 遭わされたのに。 それに、一回も会ったことがないエルフの女性に対して、どこかで会ったような奇妙な 感覚を抱いていた。これが噂に聞く既視感なのだろうか。 「俺もそんな感じですよ」 言いながらサーシャに振り返り、はたとその左手に注目した。何やら文字が刻印されている ようだ、と気がついたのだ。 そしてあることに思い至り、焦りながら自分の左手と見比べた。初めは何かの間違いだと 思ったが……よく確認して、間違いではないことを知る結果となる。 サーシャの左手の甲に刻まれているのは……自分と全く同じルーン文字なのだ! 「ガ、ガ、ガガガガガガガガ、ガンダールヴ!」 「あらあなた。わたしを知ってるの?」 「知ってるも何も!」 才人は左手のルーンを、サーシャの目の前に差し出した。 「まぁ! あなたも!」 驚いた顔だが、それほどびっくりした様子はない。対して才人は混乱し切りだ。 “虚無”を最大級に敵視しているエルフが、ガンダールヴ? 何で? どうして? というか ガンダールヴが二人? どういうこと? いや、一つだけはっきりしていることがある。サーシャが使い魔なら、彼女を使い魔に した人物がいるということだ。その人物なら、何か知っているかもしれない。 「あの、あなたをガンダールヴにした人に会いたいんだけど」 「わたしもよ。でも、ここがどこか分からないし……。全く、魔法の実験か何か知らないけど、 人を勝手にどっかに飛ばして何だと思ってるのかしら」 「魔法の実験?」 「そうよ。あいつは野蛮な魔法を使うの」 野蛮な魔法……それは“虚無”だろうか? しかし“虚無”の担い手は、ルイズ、ティファニア、 ヴィットーリオ、そしてガリアの名前も知らない誰かの四人だけのはず。他にもいたのだろうか? と考えていたら、不意に目の前に鏡のようなものが現れた。地球からハルケギニアに移動した 際に目に掛かった、サモン・サーヴァントの扉に似ている。 「何だありゃ」 呆気にとられる才人の一方で、サーシャの顔が急激に険しくなり、また全身から凄まじい 怒気を発し始めた。それに才人は思わずひっ! とうめく。 怒髪天を突いたルイズを彷彿とさせるほどのサーシャの様子におののいていると、鏡の中から 小柄な若い男性が出てきた。長いローブの裾を引きずるようにしながらサーシャに駆け寄り、 ぺこぺこと謝る。 「ああ、やっとここに開いた。ご、ごめん。ほんとごめん。すまない」 サーシャの肩が震えたかと思うと、とんでもない大声がその華奢な喉から飛び出た。 「この! 蛮人が――――――――ッ!」 そのままサーシャは男に飛び掛かり、こめかみの辺りに見事なハイキックをかました。 「ぼぎゃ!」 男は派手に回転しながら地面に転がった。サーシャは倒れた男の上にどすんと腰掛ける。 「ねぇ。あなた、わたしに何て約束したっけ?」 「えっと……その……」 サーシャは再び男の頭を殴りつけた。 「ぼぎゃ!」 「もう、魔法の実験にわたしを使わないって、そう約束したでしょ?」 「した。けど……他に頼める人がいなくって……。それに仕方ないじゃないか! 今は大変な 時なんだ」 サーシャは男の言い分を受けつけない。 「大体ねぇ、あなたねぇ、生物としての敬意が足りないのよ。あなたは蛮人。わたしは高貴なる 種族であるところのエルフ。それをこんな風に使い魔とやらに出来たんだから、もっと敬意を 払って然るべきでしょ? それを何よ。やれ、記憶が消える魔法をちょっと試していいかい? だの、遠くに行ける扉を開いてみたよ、くぐってみてくれ、だの……」 「仕方ないじゃないか! あの強くって乱暴なヴァリヤーグに対抗するためには、この奇跡の力 “魔法”が必要なんだ! ぼくたちを助けてくれる光の巨人を援護するためにも、この力をより 使いこなせるように練習を……」 男をマウントポジションから叩きのめすサーシャに怯えながらも、関係性は逆ながら俺と ルイズみたいだなぁ……と思っていた才人だが、男の言った「光の巨人」という単語に思わず 飛び上がった。 「ち、ちょっと待って下さい! 光の巨人って……ウルトラマンを知ってるんですか!?」 才人が割って入ったことで、サーシャは暴力を振るう手を止めた。サーシャの下敷きの男は 才人を見上げる。 「ウルトラマン? あの巨人たちはそんな名前なのかい? と言うかきみは誰だい?」 「才人って言います。平賀才人。妙な名前ですいません」 「そうそう。この人も、わたしと同じ文字が手の甲に……」 「何だって? きみ! それを見せてくれ!」 跳ね起きた男が才人の左手の甲に飛びついた。 「ガンダールヴじゃないか! ほらサーシャ! 言った通りじゃないか! ぼくたちの他にも、 この“変わった系統”を使える人間がいたんだ! それってすごいことだよ!」 才人の手を強く握り、顔を近づける男。 「お願いだ! きみの主人に会わせてくれ!」 「そう出来ればいいんですけど。一体、どうして自分がこんな場所にいるのかも分かんなくって……」 そうか、と男はちょっとがっかりしたが、にっこりと微笑んだ。 「おっと! 自己紹介がまだだったね。ぼくの名前は、ニダベリールのブリミル」 才人の身体が固まった。 「も、もも、もう一度名前を言ってくれませんか?」 「ニダベリールのブリミル。ブリミル・ル・ルミル・ニダベリール」 ブリミル? その名前を、才人はハルケギニアにいる間、散々耳にしていた。ルイズたちが 事ある毎に拝み、良いことがあると感謝を捧げる相手……。 「始祖ブリミルの名前?」 「始祖? 始祖って何だ。人違いじゃないのかい?」 男はきょとんとして、才人を見つめた。対する才人は必死に考えを巡らせる。 “虚無”の担い手が、始祖ブリミルを知らないはずがない。ということは単なる同名の 人物ではない。ということは……。 そんな。そんな馬鹿なことが……。 いや、「それ」の実例は何度か耳にしている。TACの隊員が超獣ダイダラホーシによって 奈良時代に飛ばされてしまったことがあったそうだし、時間を超える怪獣もエアロヴァイパーや クロノームといったものが存在している。何より、ジャンボットが「そう」だった。今の自分が 「そう」ではないと何故言い切れる? つまり……ここは“六千年前のハルケギニア”。そして目の前にいるのは……“始祖”と 称される前の初代“虚無”の担い手ブリミルと、初代ガンダールヴ! あまりの事態に呆然と立ち尽くす才人と、彼の様子の変化に呆気にとられているブリミルと サーシャ。しかしブリミルが才人に何か声を掛けようとした、その時……突然辺りをゴゴゴゴ、 と急な地鳴りが襲った。 この途端、ブリミルとサーシャの表情に緊張が走った。 「むッ! いかん、ヴァリヤーグだ! こんな場所に現れるなんて!」 「近いわよ! 早くここから離れましょう!」 えっ、ヴァリヤーグ? と才人はきょとんとした。そう言えば、さっきブリミルがそんな 名前を口にしていた。 しかし、この地面の揺れの感じは……才人も何度も体験している「あれ」の予兆では……。 「きみ、こっちに!」 ブリミルが才人の手を引きながら駆け出そうとするも、その時には草原の中央の地面が 下から盛り上がっていた。 「ああ、まずい! すぐそこまで来ている!」 「やばいわよ! 今はろくな武器もないわ!」 そして地表を突き破って、巨大な影が才人たちの目の前に出現した! 「グガアアアア!」 どっしりとした恐竜を思わせるような体格ながら、恐竜よりも何倍も大きい肉体。上半身が 鎧兜で覆われているかのような形状をした巨大生物を見やった才人が叫ぶ。 「ヴァリヤーグって……怪獣じゃねぇか!」 才人たちの前に現れたのは、ネオフロンティアスペースの地球において、モンゴルの平原から 現れたところを発見され、怪獣という存在の実在を証明した怪獣、ゴルザであった! 地上に這い上がってくるゴルザに対して、ブリミルとサーシャは顔を強張らせる。 「こんなに距離が近くては、ぼくの詠唱は間に合わない。こんな時に光の巨人がいてくれたら……」 「そんなことを言っててもしょうがないわ。とにかく走りましょう! どうにかまければ いいんだけど……」 ゴルザからの逃走を図るブリミルたちであったが、不幸にも怪獣はゴルザ一体だけではなかった。 才人が、空から急速に接近してくる気配を感知したのだ。 「あぁッ! 空からも来るッ!」 「何だって!?」 見れば、空の彼方からくすんだ赤銅色の刃物で出来た竜のような怪獣が、背に生えた翼で 風を切りながらこちらに降下してくるところだった。ゴルザと同時にイースター島から出現した 怪獣、メルバである! 「キィィィィッ!」 メルバはゴルザの反対側、つまり才人たちの進行方向に着地。これで才人たち三人は、 怪獣二体に挟まれた形となる。ブリミルがうめく。 「最悪だ……。逃げ道もなくなってしまった……!」 サーシャは短剣を抜いて怪獣たちを警戒しながら、ブリミルへと叫んだ。 「わたしが時間を稼ぐわ! あんたは隙を見て、そのサイトとかいうのを連れて逃げなさい!」 「そんな! きみを置いていくなんて出来ないよ! そんな短剣で二匹のヴァリヤーグに 挑もうなんて無茶が過ぎる!」 「じゃあ他にどうしろっていうのよ!」 問答するブリミルとサーシャだが、怪獣たちは待ってはくれない。ゴルザが額にエネルギーを 集める。光線を撃とうとしている前兆だと、才人はこれまでの経験から感じ取った。 そしてはっとブリミルたちに振り向く。ここが本当に過去の世界かどうかは知らないが、 もしそうだったら、二人が怪獣の餌食になったら大惨事だ。ハルケギニアの歴史が根本から ねじ曲がってしまう! 才人は反射的に身体が動いていた。 「二人とも危ないッ!」 「えッ!?」 両手を前に伸ばしてブリミルとサーシャを突き飛ばす。直後、才人のすぐ近くに光線が 照射され、大爆発が発生する! 「グガアアアア!」 ブリミルたちは突き飛ばされたことで逃れられたが、才人は爆発の中に呑まれる! 「ああああッ!?」 「さ、サイトッ!!」 ブリミルとサーシャの絶叫がそろった。 二人を救い、代わりに爆発に襲われる才人。爆風と衝撃を浴びる中、彼の脳裏に走馬灯の ようにこれまで出会ってきた様々な人たちの顔と――ルイズ、そしてゼロの顔がよぎった。 (ハルケギニアに来てから、色んな戦いを生き延びてきたのに、ゼロと離れた途端にこんな 訳の分からない内に死んじゃうのか……。俺って結局、こんな運命にあるのかな……) そんな彼の思考も、爆炎の熱にかき消されていく――。 と思われたその時、空の果てから「光」がまさに光速の勢いで飛んできて、ゴルザの起こした 爆発の中へ飛び込んだ。 そして閃光が草原の一帯に広がり、ゴルザとメルバがその圧力によって押し飛ばされる。 「グガアアアア!」 「キィィィィッ!」 ブリミルとサーシャは視界に飛び込んできた閃光に思わず顔を隠した。 「何!? どうしたの!?」 「こ、この光は……まさかッ!」 そして閃光が収まり、代わりのように草原に立った巨大な人影……。それを見上げたブリミルが、 歓喜の声を発した。 「来てくれたか、光の巨人!!」 ――そして才人の視界は、先ほどまでとは全く違う、森の木々よりも高い位置に来ていた。 そう、怪獣と同等の。 『こ、これは……!』 人間の身長ならばあり得ない高度だが、才人はこのような景色によく見覚えがあった。 彼の心にも喜びが溢れる。 『また、俺を助けに来てくれたんだな、ゼロ!』 そう声に出した才人だったが……どうもおかしいことにすぐ気がついた。 『あれ?』 今の己の身体を見下ろすと、ゼロの体色の半分以上を占める青色がないことを見て取った。 それにゼロの身体には、紫色は入っていないはずだ。胸のプロテクターの形も違う。カラー タイマーも同様だった。 『え? え? ゼロじゃないのか? じゃあ、今の俺は一体……』 才人は戸惑いながら、湖にまで歩み寄って、水面に己の姿を映した。 水面を鏡にして確かめた自分の顔は……ウルトラマンではあっても、ゼロとは似ても 似つかないものだった。 『こ、この姿は!?』 ウルトラセブンの面影を残すゼロとは全く違い、初代ウルトラマンに似た容貌。耳は大きく、 頭頂部のトサカの左右が楕円形にへこんでいる。 これはM78星雲の出身のウルトラマンではない……ギャラクシークライシスで怪獣が大量 発生した際、救援に駆けつけたウルトラ戦士の一人の顔である。才人はその名を唱えた。 『ウルトラマンティガ!』 才人の肉体は、ウルトラマンティガのものと化していたのだった! ガリア王国首都リュティスの、ヴェルサルテイルの薔薇園。ジョゼフが巨費を投じて作り上げた、 筆舌に尽くしがたいほど絢爛な花壇であったが、それにジョゼフ自身が火を放った。薔薇園は瞬く 間に火の手に呑まれ、灰になっていうのをジョゼフはぼんやりと見つめている。 燃え盛る炎をものともせずに、深いローブを被ったミョズニトニルンが歩いてくる。彼女は ジョゼフの足元に目をやって、主人に尋ねかけた。 「愛されたのですか?」 ジョゼフの足元にいるのは、彼の妃であるモリエール夫人――だったというべきだろうか。 何故なら、モリエールはたった今、死んでしまったからだ。ジョゼフの手によって、胸を短剣で 突かれて。モリエールは何故ジョゼフが自分を刺したのか、どうして自分が死ななければならない のか、全く理解できなかったことだろう。 ジョゼフは首を振りながらミョズニトニルンに応える。 「分からぬ。そうかもしれぬし、そうではないかもしれぬ。どちらにせよ、余に判断はつかぬ」 「では何故?」 「余を愛していると言った。自分を愛するものを殺したら、普通は胸が痛むのではないか?」 「で、ジョゼフさまは胸がお痛みになったのですか?」 ミョズニトニルンは、その答えが言われずとも分かっていた。 「無理だった。今回も駄目だった」 ジョゼフがそう唱えたところ、薔薇園の火災の上方の空間が歪み、何者かの影が浮かび上がった。 ジョゼフは極めて平常な態度でそれを見上げたが、ミョズニトニルンはかすかに不快感を顔に表す。 『ほほほ、陛下におかれましては相変わらずの無慈悲さでございますな。頼もしい限りです。 それはそうと、例の怪獣の軍勢の用意が整いました。中核となる「あれ」も、明日には再生が 完了致します』 「そうか。よくやった」 『それと、陛下ご執心の担い手が三人、ロマリアなどという人間の虚栄心の集まる土地に 集結しております』 それはわたしがジョゼフさまに報告しようとしていたことだ、とミョズニトニルンは内心 苛立ちを抱いた。 「それはちょうどいいな。よろしい。余のミューズよ、全ての準備が整い次第、“軍団”の 指揮を執れ」 「御意」 そんな感情はおくびにも出さず、ミョズニトニルンはジョゼフの命を受けると再び炎の中に 姿を消した。 中空に浮かぶ影は、ジョゼフに対して告げる。 『しかしながら、陛下はまこと恐ろしいお方! 「あれ」は“死神”たる私ですら、前にした 時には身震いが止まらなかったほどなのに、陛下は平然と利用なさる! 野に解き放てばそれこそ 世にも恐ろしいことが起こるというのに、陛下は眉一つ動かされない! 何とも恐ろしいお人です!』 影の言葉に、ジョゼフは薔薇園のテーブルを叩く。 「ああ、おれは人間だ。どこまでも人間だ。なのに愛していると言ってくれた人間をこの手に かけても、この胸は痛まぬのだ。神よ! 何故おれに力を与えた? 皮肉な力を与えたものだ! “虚無”! まるでおれの心のようだ! “虚無”! まるでおれ自身じゃないか!」 『まことおっしゃる通りで、陛下』 「ああ、おれの心は空虚だ。中には、何も詰まっていない。愛しさも、喜びも、怒りも、 哀しみも、憎しみすらない。シャルル、お前をこの手にかけた時より、おれの心は震えんのだよ」 遠くから、燃え盛る花壇に気づいた衛士たちが大騒ぎを起こして消火活動を始めたが、 その喧騒にもジョゼフは意を介さない。熱を帯びた目で、虚空を見つめてうわ言のように つぶやくのみだ。 「おれは世界を滅ぼす。この空虚な暗闇を以てして。全ての人の営みを終わらせる。その時こそ おれの心は涙を流すだろうか。しでかした罪の大きさに、おれは悲しむことが出来るだろうか。 取り返しのつかない出来事に、おれは後悔するだろうか。――おれは人だ。人だから、人として 涙を流したいのだ」 言いながら、天使のように無邪気に笑うジョゼフの姿を、影が薄ら笑いとともに見下ろしていた――。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9100.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第三十一話「体温3000度の対決」 超高熱怪獣ソドム 登場 ハルケギニアの世界にやってきた春奈を学院にかくまってから、早三日目。既に昨日、 ダダとギギのタッグが学院に乗り込んでくるなどと、ルイズと才人の周囲には波乱が起こっている。 そして今日もまた、新たな異常事態が彼らを襲っていた。 「あ~……あちぃ~……あちぃよぉ~……」 「暑い暑い言ってるんじゃないわよ……。余計暑くなるでしょ……」 「そうは言われても、暑いもんは暑いんだよ……」 ルイズの部屋では、インナー姿の才人が汗だくで「暑い」と連呼するのを、同じように 汗だくで下着姿になっているルイズが咎めた。普段は日中からはしたない姿を晒すことなど 貴族のプライドが許さないのだが、部屋の気温は彼女の強固な矜持を溶かすほどであった。 その日、魔法学院は、夏にはまだ早いにも関わらず猛烈な暑さに襲われていた。 ルイズが才人に尋ねかける。 「今、何度?」 「36.5度」 「それ、あんたの体温じゃないの?」 「この部屋だよ。外は普通だってのに、何でこの学院だけ、いきなりこんな暑くなったんだ!?」 あまりの暑さに苛立った才人がウガー! と叫ぶと、デルフリンガーがぼやいた。 「この程度の気温の変化に参るなんて、人間ってのは不便なもんだね」 「デルフ、お前は平気なのかよ?」 「俺っちは剣だからな。鉄が溶けるような温度でもなきゃヘッチャラなんだよ」 「今だけは、あんたが羨ましいわね……」 うなだれたルイズが思わずつぶやいた。すっかりダラ~となっているルイズと才人に、 デルフリンガーが告げる。 「お前さんらより、そこで寝てる嬢ちゃんの方が辛いんじゃねぇの?」 「あッ、そうだった! 春奈、大丈夫か? 脱水症状起こしてないよな?」 我に返った才人は、慌ててベッドで寝ている春奈の側へ駆け寄っていった。それを目にして、 ルイズがムッとなる。 (もうッ、面白くない! わたしの使い魔のくせに、ハルナのことばかり気に掛けて! あの娘は、 もうどこも悪くないってのに!) 春奈が仮病を使っていることは、シエスタから聞いた。それを利用して才人の気を引いている 春奈には苛立ちを覚えるが、今は怒りを示す気力も湧いてこない。それほど暑い。 (ハルナには仮病を白状してもらいたいけど、今は先に、この暑さをどうにかしてもらいたいわね……) あまりの暑さのせいで、授業は急遽全て休講。教師たちは総出で、異常な高温の原因を調べている。 それまで、多くの生徒は学院の外へ避難しているが、ルイズたちは春奈がいるので、この場から いなくなる訳にはいかなかった。 早く原因を突き止めて、気温を元に戻してもらいたい。ルイズは切に願っていた。 「春奈、大丈夫か? ……うわ、すごい汗だ! まぁ、当たり前か……」 春奈の容態をひと目見た才人は、彼女が自分たち以上に発汗していることに驚愕した。 だが無理のないことだ。ただでさえ高温の室内で、厚手の布団が掛かっているのだから。 「うッ……うーん……み、水……」 「水か? 分かった!」 苦しそうな春奈のうめきで、才人がコップに水を注いで彼女に飲ませる。だが、その途端に 春奈は咳き込んだ。 「ゴホッ、ゴホッ!」 「春奈!? うわッ、お湯になってるじゃねぇか!」 暑さのあまり、水は熱湯に変わっていたのだ。 「クソッ! 春奈は安静にしてなきゃいけないのに……こんな暑さじゃ、春奈の身体に障る! 早くどうにかならないのか……!」 才人は大きく舌打ちして、事態の早急な解決を願った。才人が春奈のことばかり気にして 自分には目もくれないので、ルイズはますます苛立ちを募らせる。 そうしていると、才人の願いが天に届いたのか、状況を確認しに出ていたシエスタが戻ってきて、 一番に告げた。 「サイトさん、ミス・ヴァリエール! 教師の皆様が、この暑さの原因を突き止めました!」 「本当!?」 「やった! その原因って何だ? 教えてくれ!」 ルイズと才人が飛び起きると、シエスタはこう話す。 「それが何と、学院の真下、地下倉庫に怪獣が張りついてたんです!」 「怪獣!?」 まさかの原因に声を荒げるルイズたち。それから、ルイズが聞き返す。 「でも、怪獣とこの暑さがどう関係するの?」 その疑問には、シエスタは次のように説明した。 「その怪獣なんですが……体温が異常に高いみたいなんです。推定体温は、何と2500度!」 「2500度!?」 とんでもない数値に、ルイズも才人も目を見張った。 「その熱が地下倉庫から学院全体に伝わって、こんな猛暑になってるそうなんです……」 シエスタが額に浮かぶ汗をぬぐいながら伝えた。こんな時でも暑苦しいメイド服を着ているので、 才人やルイズ以上に苦しそうだ。才人はシエスタの苦労を労う。 「ありがとう、シエスタ。けど、2500度も体温のある怪獣なんてな。どんな奴なんだろう……」 才人が怪獣の正体を推測する。人間の常識を超越した怪獣といえども、そこまで高温なものは そうそういるものではない。灼熱怪獣ザンボラーか、二日前に出現したグランゴンだろうか? 「それで、先生たちはどうするつもりなのか分かる?」 ルイズが対策を問いかけると、シエスタはしっかりを調べていた。 「幸い怪獣に暴れる気配はないみたいなので、水系統の教師が中心となって、水の魔法を 浴びせて追い払う作戦が立てられました」 「なるほど。相手が熱いなら冷やせばいいって訳ね」 納得したルイズは、ひと際大きなため息を吐く。 「早いところ、追っ払ってほしいわ。こうしてるだけでも、溶けちゃいそう……」 「直に作戦が実行されるはずですけど……」 などと話していたら、急に学院全体が激しい揺れに襲われた。ルイズたちは思わずよろめく。 「きゃッ!?」 「始まったみたいです!」 「わっとッ! 春奈、大丈夫か!?」 才人は真っ先に春奈のことを案じた。そのことで、ルイズとシエスタは同時にムッと顔をしかめる。 だがすぐに他のことに気を引きつけられることになる。窓から一望できる、学院を取り囲む 平原の一箇所から、巨大怪獣が土を吹き飛ばして這い出てきたのだ。 「キギョ―――――オォウ!」 四足歩行の、ゴルゴスのような岩石質の肌を持ちながら、表面が赤く熱せられているという、 見るからに熱い怪獣の出現により、ルイズたちを一層の熱波が襲った。ルイズが思わず叫ぶ。 「あっつ!? 遠くにいるのに、ここまで熱が伝わってくるわ! あいつが犯人で間違いないわね……!」 「あいつは……超高熱怪獣ソドムっていうのか……!」 才人がすぐに携帯端末で怪獣の情報を調べた。するとルイズが尋ねかける。 「サイト、あれがどういう怪獣なのか、もっと分からないの? もしあいつが凶暴な性質だったら、 学院が危ないわよ」 それに、才人は否定を返した。 「残念だけど、名前と、体温がすごく高いってことぐらいしか載ってねぇや」 ソドムは、本来M78ワールドの怪獣ではない。ティガやダイナの故郷、ネオフロンティアスペースの 地球に生息する怪獣だ。ギャラクシークライシスという様々な宇宙の怪獣が多数召喚される事件によって M78ワールドでも存在が観測されたが、そういう怪獣は生憎と情報が少ないのであった。 「そう。でもまぁ、さっきまで大人しくしてたみたいだし、凶暴じゃないみたいだけど……」 ルイズがそうつぶやいた矢先に、ソドムはそれを裏切るかのように活動を始めた。 「キギョ―――――オォウ!」 急に大きく口を開くと、そこから猛烈な火炎を吐き出したのだ! 火炎は学院の方向へと 飛んできて、直撃はしなかったものの校舎全体が高熱に晒される。 「きゃあぁッ! 攻撃してきたわ!」 「魔法攻撃を受けて、怒ってるんでしょうか……?」 思わず悲鳴を上げるルイズたち。そして火炎を吐いたソドムは、ドスドスと激しく足音を 鳴らして学院へと一直線に向かい始める。 「こ、こっちに来るわよ!」 窓から覗く光景の中では、地下から慌てて地上へ上がってきた教師たちが、ソドムの接近を 阻止しようと魔法攻撃を飛ばし始める。だが体温の高すぎるソドムの周囲は灼熱地獄なので、 近づくことすらままならず、遠くからでしか攻撃できない。そして、大きく距離を開けた位置から 飛ばす魔法では、ソドムにとっては豆鉄砲に等しい威力しか出ないようで、まるで足を止めることは 叶わなかった。 「このままじゃ、学院が危ないわ! サイト……!」 「あぁ!」 ルイズの目配せを受けた才人がうなずいて、部屋を飛び出そうとする。ゼロに変身して ソドムに立ち向かおうというのだ。 「ま、待って平賀くん! どこに行くの!?」 それを、事情を知らない春奈が即座に呼び止めた。才人は彼女に振り返ると、短く告げる。 「春奈、俺たちがどうにかしてあいつを食い止める。お前はここで待っててくれ」 「ほ、本気!? 危険だよ!」 血相を抱える春奈だが、才人は安心させるように笑いかけた。 「誰かがやらないといけないんだ。何、心配ないって。危なくなったら、きっとウルトラマンゼロが 来てくれるからな。それじゃ!」 「あ、待って……!」 もう話している時間はないとばかりに、才人がルイズとともに飛び出していくのを春奈が 追いかけようとしたが、それをシエスタに止められる。 「ハルナさんは、ご病気なのでしょう? 安静にしてないとダメじゃないですか」 「うッ……」 こんな時にシエスタからとげとげしく言われて、春奈は仕方なく浮かしかけた腰を下ろした。 そして、ルイズと才人が出ていった扉を、羨ましそうに見つめた。 学院の上空では、シルフィードに跨ったタバサとキュルケが、教師たちがソドムの進撃を 止めようとして、無駄な抵抗に終わっている構図を見下ろしていた。 「ちょっと、これまずいんじゃない? どうしてこう、立て続けに学院の危機が相次ぐのかしら」 キュルケが焦った様子でつぶやく前では、タバサがソドムの容姿を観察して独白する。 「……間違いない。あれは、伝説の火竜山脈の古代竜。古文書に描かれた姿にそっくり……」 「え? タバサ、あの怪獣を知ってるの?」 キュルケが驚いて聞くと、タバサはコクリと頷いた。 「地元の伝説では、火の精霊の怒りを静め、火山の噴火から人々を救うと云われている」 その説明に、キュルケは疑わしそうに顔をしかめた。 「それ本当? 今の状況と真逆じゃない。それに、どうして火竜山脈の竜がこんな場所にいるのよ」 「そこまでは分からない。伝説は、伝説でしかないから、間違っていることも考えられる」 正直に答えるタバサ。 「そう。まぁそれは置いといて、今は現実の状況よね。こういうピンチの時は、いつも彼が 来てくれるんだけど……」 キュルケが噂をすると、果たして青と赤の光がどこからともなくソドムの眼前に降りていき、 それがウルトラマンゼロの姿になった。 「やっぱり! 今回も来てくれたわね。ゼロー! そんな怪獣やっつけちゃってー!」 キュルケが黄色い声を出して、ゼロの応援をした。 「キギョ―――――オォウ!」 『ソドム! 何が目的かは知らねぇが、ここから先には行かせねぇぞ!』 才人が変身したゼロは、すぐさまソドムに飛び掛かっていき、身体を掴んで足を止めようとする。が、 『!? あぢぃッ!』 ソドムの体表に触れた途端に手の平が焼け、思わず手を離した。体温が2500度もあるソドムの皮膚は、 焼けた鉄板そのもの。如何にウルトラマンゼロといえども、触って無事では済まなかった。 「キギョ―――――オォウ!」 ソドムは離れたゼロに火炎を吐きつける。もろに浴びたゼロは、後ろへ大きく吹っ飛ばされた。 『うぐあぁッ!』 「キギョ―――――オォウ!」 更にソドムは、滅茶苦茶な方向に火炎を連発し出す。火炎の一部は学院の方にも飛んでいき、 教師たちやシルフィードが慌てて退避した。 『この……! 何つぅ暴れん坊だ! これでも食らいな!』 ゼロはまず、ソドムから熱を奪うために、手の平を合わせて大量の水を放出し始めた。 ウルトラ水流。ウルトラ一族の技の中では比較的ポピュラーなもので、類する技を 多くの戦士が使用している。 「キギョ―――――オォウ!」 ウルトラ水流はソドムに頭から降りかかる。それによって水が蒸発して水蒸気になり、 気化熱によってソドムの体温を下げていく。 『よしよし、上手く行ってるぜ。この調子だ!』 狙い通りになっていることに満足げに頷くゼロだが、異変はすぐに発生した。 「キギョ―――――オォウ!」 『何!? 体温が逆に上がってくだと!? どうなってるんだ!?』 ゼロの超感覚が、当初は順調に熱を下げたソドムが、突如ぶり返したばかりか先ほどよりも 更に高い熱を発するようになったことを捉えた。その体温、約3000度。あまりの熱に、 水蒸気の中に巨大なソドムの虚像が浮かび上がるという蜃気楼現象まで発生した。 「キギョ―――――オォウ!」 『ぐおおぉぉッ!』 体温を3000度まで上げたソドムは、またゼロに火炎を浴びせた。それにより水流が止められる。 ゼロをひるませると、ソドムはより激しく火炎をまき散らし出した。 『くっそぉッ! もう勘弁ならねぇぜ! シェアッ!』 「キギョ―――――オォウ!」 頭に来たゼロは、肉弾戦に切り替えてソドムを叩きのめし出す。ソドムの身のこなしは鈍く、 ゼロパンチにキックが簡単に追い詰める。 『ぐッ……! やっぱ熱い……!』 しかし一瞬触れるだけでも、ゼロの肌は熱で傷つけられる。打ち込めば打ち込むほどゼロも 追い詰められていく。 「キギョ―――――オォウ!」 『うわッ!』 そしてソドムは、殴打を食らう最中も口から火炎を吐く。その熱でも、ゼロはジリジリ 苦しめられていき、カラータイマーを鳴らせ始めた。 ゼロの苦闘を、学院の城壁の外からながめるルイズは、杖を抜いて『爆発』を使用する準備を整えていた。 「ゼロ、危なくなったら、わたしの『虚無』でそいつを吹っ飛ばすわ……!」 ルイズの部屋からは、シエスタと春奈も戦いの行方を、固唾を呑んで見守っていた。 「ウルトラマンゼロ、負けないで……!」 シエスタは静かにゼロの応援をするが……春奈はソドムの方に目をやって、ある疑問を抱いた。 「あの怪獣、何か変……。まさか……!」 そして一つの仮説を立てたところで、ゼロが巻き返し始めた。それで喜ぶシエスタと対照的に焦る。 「駄目……! 止めなきゃ……!」 とつぶやいた春奈は、反射的に窓から身を乗り出し、ゼロへと力一杯に叫んだ。 「ウルトラマンゼロ! やめてッ!!」 「ハルナさん!?」 病に伏せっているということになっている春奈が、こんな行動に出たことに、シエスタは 思わず目を見張った。 窓から身を出して叫んだ春奈の姿を、キュルケとタバサがしっかりと確認する。 「あら? あの娘、一体誰かしら? あそこは確か、ルイズの部屋よね」 「……昨日も見たような……」 タバサは、窓からシエスタが落下した際に、一瞬だけ春奈の姿を確認したことを思い返した。 『こいつでフィニッシュだッ!』 ゼロは突き飛ばしたソドムに、とどめのワイドゼロショットをお見舞いしようとする寸前だった。 そこに、春奈の制止の声が掛かる。 「ウルトラマンゼロ! やめてッ!!」 『春奈?』 遠く離れているが、ゼロの超感覚は春奈の叫び声を聞き止めていた。振り返ると、春奈が 続けて叫ぶ。 「その怪獣、きっと風邪ひいてるのよ!」 『は? 怪獣が……風邪ぇ!?』 突飛なひと言に仰天したゼロは、ソドムを改めて観察する。叩きのめされたソドムはまだ ゴホッゴホッと火炎を吐いているが、その勢いはすっかり弱まり、白い煙に変わっている。 「ほら! その証拠に、咳き込んでる! 風邪で苦しんでるだけなんだって!」 『い、言われてみれば……』 冷静になったゼロは、ソドムの不可解な行動を思い返し、風邪という理由なら説明がつくことに 気がついた。水を浴びせて逆に体温を上げたのは、冷水を浴びて風邪をこじらせてしまったから。 火炎をまき散らしていたのは、あれがソドムのくしゃみなのだ。動きが鈍いのではなく、風邪で 弱っているのだろう。 そして実際に春奈の仮説は的中しており、このソドムは風邪引きなのだった。ソドムは 火山地帯の熱い地下に住まう怪獣で、マグマによって作られた変成岩を食料としている。 ソドムが変成岩を食べて横穴が出来、そこにマグマが流れ込むことで、火山の噴火の原因の マグマの圧力が下がる。これが火の精霊の怒りを鎮めるという伝説につながったのだが、 このソドムは変成岩を食べている内に魔法学院の地下へと迷い込み、ソドムからしたら 寒すぎる環境のせいで風邪に罹ってしまったということなのだった。ネオフロンティアスペースの ソドムも、似たような状況で風邪を引き、スーパーGUTS基地を灼熱地獄に追い込んだのであった。 『怒りに我を忘れてて、真実に気づけなかった……。俺もまだまだ未熟だな……』 悪意のない怪獣を叩きのめしてしまったことを、ゼロは深く反省した。そこにシルフィードが そっと近づいてきて、乗っているタバサが教える。 「ゼロ、その怪獣は火竜山脈が生息域。そこに返してあげて。それで解決する」 「ジュワッ!」 タバサに頷いたゼロは、ルナミラクルゼロに変身。超能力に特化した形態による念動力で、 すっかり大人しくなったソドムの巨体を持ち上げた。 「デュワッ!」 ゼロはそのまま空を飛び、魔法学院からはるか彼方、ガリアとロマリアの国境まで一気に飛んでいった。 そこが火竜山脈。ゼロはその中の火山に目をつけると、上空からソドムを火口へとゆっくり下ろす。 『すまなかったな、ソドム。本来の生活場所で、ゆっくり養生しろよ』 「キギョ―――――オォウ!」 運ばれたソドムは、ゼロにお辞儀をするかのように頭を下げた後、火口の中に飛び込んで 溶岩の中に姿を消した。 それを見届けたゼロは反転し、魔法学院へと帰っていった。 「えぇッ!? 春奈、仮病だったのか!?」 ソドムの一件が解決した直後、ルイズの部屋に戻った才人は、寝巻きから制服に着替えた春奈から、 こちら側の真実を伝えられた。全く気づいていなかった才人は驚愕して目をひん剥いた。 「うん。ごめんね、平賀くん……」 「でも、何で仮病なんて……」 才人が聞き返すと、春奈は申し訳なさそうに目を伏せた。 「最初は本当に具合が悪かったんだけど、平賀くんが優しくしてくれるから、ついそれに 甘えちゃったの……」 「つい、じゃないわよ! お陰でこっちは迷惑したわ!」 ルイズがぷりぷり怒ると、才人はルイズと春奈の間に割って入って、春奈を弁護した。 「ルイズ、そんなに怒らなくてもいいだろ。春奈も、反省したからこうやって話してくれたんだ」 「サイト! あなた、騙されてたのよ。それなのに、何でまだかばうのよ!」 まだおかんむりのルイズが問い返すと、才人は春奈を一瞥してから、こう語った。 「だって、春奈は突然見知らぬ世界に放り込まれて、すごく心細い思いをしたんだぜ? 今まで 見たことのない景色の中で、自分を知ってる奴が誰もいない。そんな状況で、ようやく知り合いに 巡り合えたんだ。そりゃ、頼りたくなっても仕方ないだろ。同じく知らない世界にいきなり 放り出された俺は、その気持ちがよく分かる」 「うッ……」 真剣な面持ちの才人の言葉に、ルイズは怒りが揺らぐ。 「そりゃ、春奈のやったことが褒められないことだというのは分かる。だから、春奈が謝ってるんだ。 許してやってくれないか?」 才人の弁護で、シエスタは頬を緩ませる。 「……分かりました。サイトさんの言う通りかもしれません。ハルナさんの件は、もう水に流します」 才人がルイズに視線をやると、ルイズも頬を赤く染めてそっぽを向いた。 「わ、分かったわよ、もうッ! わたしも、ハルナのことを許すわ。それでいいんでしょ!?」 「二人とも、ごめんなさい。そして、ありがとう……」 許しを得た春奈は、ルイズとシエスタに深々と頭を垂れた。すると才人が、彼女にふと問いかける。 「でも春奈、急にどうして本当のことを話してくれるつもりになったんだ?」 それに春奈は、次のように答えた。 「さっきの怪獣を見てて、思ったの。仮病で甘えてるのは楽だけど、それが周りに迷惑を掛けてる。 それじゃいけないって。それに、本当に病気で苦しんでる人に悪いしね」 「ああ、そうだな。仮病なんてするもんじゃない。健康が一番だ」 「それと、もう一つ……」 「?」 「病気でいるより、健康でいる方が、平賀くんと一緒にいれるって思ったから」 「えッ……」 そのひと言で、才人はドキリとさせられた。その様子を目ざとく見咎めて、ルイズとシエスタは またも機嫌を悪化させた。 「……仮病が分かっても、結局ハルナに構うんじゃない!」 「そうですね……。これはうかうかしてられませんね……」 仮病は暴かれたが、結局は春奈に嫉妬心と対抗心を燃やす二人なのであった。 仮病の一件は綺麗に片がついたのだが、ソドムの騒動は一つ、後日談を残していった。 「サイト……今、何度?」 「41.5度。お前は?」 「わたしは40度ちょうどよ……へっくしッ!」 ベッドの上で布団にくるまっているルイズと才人が、ガタガタ震えながら言葉を交わした。 それから二人して、大きなくしゃみを出す。 ソドムが去ったことで、学院は元の気温を取り戻したのだが、すさまじく暑かった状態から 一気に気温が下がったので、学院のほとんどの人間はその温度差で体調を崩し、風邪を引いてしまったのだ。 ソドムがくしゃみと咳で風邪菌をまき散らしたのも悪かったのかもしれない。 「悪意がなくても……いなくなった後まで迷惑な怪獣だったじゃない……へくしッ!」 「今更言っても仕方ねぇよ……はっくしぃッ!」 「平賀くん、大丈夫? はい、お水」 シエスタまで伏せったので、春奈が才人に水を注いだコップを手渡した。彼女は事前に 病気に罹って免疫をつけたのか、数少ない無事な人間になったのだ。 「悪いな、俺たちの面倒なんか見させちゃって……」 「いいの。これくらいしないと、罪滅ぼしにならないだろうし。何より、こんな私でも平賀くんの 力になれるんだもの。こう言うと悪いかもしれないけど、何だか嬉しい……」 「春奈……」 「ちょっとぉ! 罪滅ぼしなら、こっちも構いなさいよ! うッ、ゴホゴホッ……!」 何だかいい雰囲気になる才人と春奈に怒鳴ったルイズが、大声を出したことで思わず咳き込んだ。 「なーにやってんだか」 そんなルイズの様子に、デルフリンガーが今日もまた呆れ返った。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔